History of ICEPP

東京大学 THE UNIVERSITY OF TOKYO

ICEPP 素粒子物理国際研究センター International Center for Elementary Particle Physics

The ATLAS Experiment at LHC, CERNCERN LHC加速器を用いたATLAS実験

ATLASとは、スイスとフランスの国境付近にあるCERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC加速器で行なわれている実験プロジェクトの名称であり、同時に素粒子を探索する検出器の名称です。16年の歳月をかけて建設された世界最大の加速器を用いて、宇宙誕生から1兆分の1秒後の温度に相当する高エネルギー状態を作り出し、素粒子・宇宙の謎に迫ります。

Accelerator to Explore the Early Universe宇宙誕生直後を探る加速器

素粒子物理学の標準理論は1970年代に実験的に実証されて確立し、提唱者のグラショウ博士、ワインバーク博士、サラム博士は1979年にノーベル物理学賞を受賞しました。1980年代には質量の起源であるヒッグス粒子の発見を目指して、宇宙誕生直後に匹敵する高エネルギー状態を創り出す、壮大な加速器プロジェクトが動き始めます。

©CERN

Japan’s Initiative for LHCLHC実験に向けた、日本の率先した貢献

CERN実験プログラムへの日本の参加は、1960年代の陽子・反陽子消滅反応の泡箱実験研究に始まります。長年、協力体制を構築してきた日本は、1994年4月にATLAS日本グループを結成し、1995年6月のCERN理事会で欧州地域以外のオブザーバ国として、世界で一番最初に認められました。その後、政府・企業・大学及び研究機関が一体となって、大きな貢献を果たします。

©CERN

Global Collaboration supported by Japan国際共同研究を支えた日本の活躍

当時、ATLASに参加していた日本の大学・研究機関は、東京大学や高エネルギー加速器研究機構、神戸大学、大阪大学、名古屋大学など15機関にのぼりました。日本グループが一体となって集中参加することで、ATLASの未来に確実に寄与してきました。研究者の専門知識と経験と企業の高い技術力が混ざり合うことによって、途方もない大型プロジェクトは着実に前進しました。

©CERN

The Grid Connecting the World世界をつなぐコンピューティンググリッド技術

LHC実験は検出器だけでなく、観測されるデ-タの収集処理・解析に対しても非常に厳しくチャレンジングな技術を要求します。膨大なデータ解析のインフラを実現するためにコンピューティンググリッド技術が採用され、世界各国の多数のサイトの計算機サーバ、記憶装置が接続され、あたかも単一の計算システムのように運用しています。90年代に提唱された最新のグリッド技術が世界規模で実用化した、初めてのケースとなりました。

©CERN

Starting the World’s Largest Collider世界最大の加速器が始動

2008年9月10日、16年の歳月をかけて建設されたLHC加速器が完成し、450GeVビーム周回の成功しましたが、わずか9日目に大きなトラブルに見舞われ、実験の中止を余儀なくされました。直ちに懸命な原因究明と根本的な解決策を見い出し、より強固なマシンとして2009年11月より再稼動しました。その後は段階的にエネルギーを上げて、2010年3月30日、ついにCERNのLHC加速器は、最終目標(14TeV)の1/2の7TeVで陽子・陽子衝突実験を開始しました。

©CERN

The Higgs Discoveryヒッグス粒子の発見

LHC実験における2012年のヒッグス粒子の発見は「素粒子物理学の7月革命」と呼ばれ、素粒子物理学の歴史を塗り替えました。物質に質量を与える未知の素粒子「ヒッグス粒子」の解明へ向けて、日本グループは天文学的な統計量の実験データを信頼性が高い手法で探索しました。ヒッグス粒子の偉業は、2013年3月の発見確定から約半年後という異例のスピードで栄誉あるノーベル物理学賞に輝きました。

©CERN

Shutdown for Energy Upgradeエネルギー増強に向けた加速器停止

LHCは2013年から約2年間にわたり大規模な改修を行ないました。2015年からの第二期実験(Run2)では、ヒッグス粒子発見時の第一期実験(Run1)の倍近い13TeVに衝突エネルギーを増強し、ヒッグス粒子の精密測定や新粒子・新現象の発見を目指します。宇宙の森羅万象の基となっている法則をつきとめる素粒子物理学の挑戦はまだまだ続きます。

©CERN

Challenges for New Frontiers in Physics新しい物理探索へ、未知なる挑戦

2015年以降、LHCは衝突エネルギーを13TeVに増強し、4年間を通して順調な運転を続けました。ヒッグス粒子の精密測定や超対称性粒子など素粒子物理学の標準理論を超える新粒子・新現象の発見を次の物理ターゲットとし、Run2で取得した大量のデータから、2012年のヒッグス粒子発見より先に進んだユニークな解析結果を導き出しました。

©CERN

Many Tasks during the 2nd Shutdown2度目の運転停止時に課せられた巨大なタスク

重心系エネルギー13TeVでのRun2はLHC物理を大いに進歩させ、そして1つの避けられない結論-これまで以上に高輝度の必要性を強調することになりました。LHCの高輝度化により、ヒッグス物理検証や新物理探索の可能性は拡がる一方、検出器に対する要請はより一層厳しさを増しています。

©CERN

ATLAS実験の未来

2012年7月「ヒッグス粒子と思われる新粒子」の発見から、2013年10月のノーベル物理学賞のスピード受賞まで、ヒッグス粒子は科学雑誌のみならず一般の新聞等の紙面を飾りました。
なぜこんなに注目されたのでしょうか?これまでいろいろな素粒子が発見されてきましたが、ヒッグス粒子はこれまでに発見された素粒子とは全く異なるカテゴリーであり、その発見はまさに素粒子物理学の「パンドラの箱」を開けた瞬間だったのです。この新しいカテゴリーは粒子を囲む「真空」に関係し、もっと正確に言うと真空に「ヒッグス場」という場が潜んでいたことがわかりました。そして、宇宙全体に広がった真空の場は、宇宙の誕生や進化に深く関係しています。
さらには、素粒子を囲むもう一つの要素に「時空」があり、現在進行中の実験で探索している超対称性粒子が見つかれば「時空」と「素粒子」を結ぶミッシングリンクの発見となります。「真空」と「時空」が結びついたとき、暗黒エネルギーや重力誕生が解明されることになるかもしれませんが、そこに辿り着くにはまだ多くの研究課題があります。
CERNのLHCはこの先も世界最大のエネルギーフロンティア加速器であり続け、世界最高性能のタイムマシンを用いた科学のエキサイティグな謎解きは続けられていきます。約3,000人のATLAS実験の中で、東大グループをはじめとする日本の研究者は、海外の研究者とともに「競争」「協調」し、物理学の新時代を切り拓いていきます。