────時空と宇宙の謎を解明する。
東京大学 素粒子物理国際研究センター

山下研究室

J-PARC加速器の開発

J-PARC

J-PARC施設

RCS Core

3GeV RCS加速空洞 (J-PARC)

2008年より茨城県東海村において加速器を用いた複合研究施設であるJapan Proton Accelerator Research Complex(J-PARC)が稼働しています. 陽子ビームを加速して標的に衝突させ,そこから生じるπ中間子,K中間子,中性子などの粒子を利用した研究が行われています.実験分野は原子 核・素粒子実験,物質・生命科学実験など多岐に渡ります.

J-PARCの加速器はリニアック,Rapid-Cycling Synchrotron (RCS),Main Ring (MR) の3つに大別できます.リニアックは線形加速器,RCSとMRはどちらも円形加速器です.ビームはリニアック,RCS,MRの順に通過し,次第に加速され ていきます.

山下研究室が研究しているのはRCSとMRに設置されている高周波加速空洞です.加速空洞はビームを加速する部分であり,加速器の心臓部とも言える装置です.J-PARC加速器のビーム大強度化計画に即して,安定した運転をよりハイパワーで行える新しい加速空洞の開発が重要な研究 課題となっています.山下研究室だけでなく,高エネルギー加速器研究機構,東京大学生産技術研究所,物質・材料研究機構,産業技術総合研究所 と共同で研究を進めています.

この加速空洞はユニークな構造の金属磁性体コアを装荷し,冷媒にフッ素系不活性液体を用いるという,従来の加速空洞にみられない特徴をもっており,学術的にも意義の大きい研究開発です.

リニアコライダー計画

Linear Collider

International Linear Collider

リニアコライダー計画(ILC計画)は電子・陽電子リニアコライダーでTeVエネルギー領域の素粒子実験を行うことを目的としたプロジェクトです.
リニアコライダーとは,約40kmにも及ぶ直線トンネルの中で電子と陽電子のビームを高エネルギーで衝突させ,その素粒子反応を調べる世界最大の加速器のことです.

ILCの加速空洞の開発

cavity

ILCでは電子・陽電子を加速するために超伝導加速空洞が使われます.加速空洞とは電子・陽電子を加速するために作られる,金属製の空洞のことです.電磁波を供給すると空洞内で電磁波が共振を起こし,そのときの電場が電子・陽電子を加速します.ILCでは加速空洞を約1万5千台設置する予定です.また,ILCで使われる加速空洞は,電力損失を抑えるために超伝導状態にして運転します.ニオブと呼ばれる特殊な金属素材で空洞を作り,これを液体ヘリウムで冷却して超伝導状態にするのです.高い加速勾配を安定に得るために,世界中で超伝導加速空洞の開発を行っています.山下研究室では実際に超伝導加速空洞(1セル)を材料加工から製造・研磨加工・性能試験まで行い各段階の課題を検討してきました.

ILC最終収束系の振動除去システムの開発

feedback

次世代の大型加速器実験である国際リニアコライダー(ILC) 計画ではIR (Interaction Region)付近の電磁石を1nm精度でアライメントすることが要求されています.これはILC の電子,陽電子ビームの縦方向のビームサイズをIR で数nmにまで絞るためです.このため,1nm精度のアライメントが可能な台座が製作されました.台座には6つのピエゾアクチュエーターが組み込まれていて,これらの伸縮により約700kgまでのコンポーネントを上に載せて1nm精度でアライメントができます.しかし,単にアライメントを行っただけでは1nm精度で位置決めをすることはできません.なぜなら,交通や波浪等に由来する,数nm の振幅をもった地盤振動が1nm精度のアライメントを阻害してしまうからです.それゆえ,当研究室ではこの地盤振動を打ち消すための振動制御システムを開発しています.

現状

この振動制御システムは,台座に組み込まれたピエゾアクチュエーターを高速で伸縮させることにより,地盤振動による台座の揺れを打ち消すというフィードバックシステムになっています.最終的にはビームモニターとビームの変位を測定して制御をする予定ですが,現状では台座の変位を静電容量型変位計でモニターし,データ処理をPLC(Programmable Logic Controller) で行っています.