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ATLAS実験:新事象発見に挑む研究者たち2018.06

ATLAS実験は、CERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で行なわれている国際共同実験である。LHCで陽子どうしを衝突させ、そのとき生じた物理事象をATLAS検出器が検出・解析する。ATLAS実験は、ヒッグス粒子発見に大きく貢献した。

LHCは2013年2月にシャットダウンしてアップグレードされ、加速器のエネルギーがほぼ2倍に。激増する発生事象に対応すべく、ATLAS検出器も改良された。2015年夏に第2期運転(Run2)が始動、新粒子・新現象の探索が行なわれている。

2018年、Run2は最後の年を迎え、ATLASランコーディネータ(検出器運転の最高責任者)に就任した本センターの石野雅也教授は奮闘している。膨大なデータを検出・蓄積し、2017年のデータ量は過去2年分を超えた。ATLAS日本グループは、解析を精力的に進めるべく、テーマ別に専門チームを組織した。本センターは、大学・研究機関の枠を超えて解析チームをリードしている。

Run2後に向けた動きも進む。LHCは2019年以降に2回、長期シャットダウンが予定されている。粒子の衝突頻度を高める「高輝度LHC」計画のためだ。衝突頻度がLHCの当初デザイン値の数倍に及ぶ高感度測定が可能になり、発生事象も激増する。それに伴い、ATLAS検出器のさらなるアップグレードも計画されている。対象は主に4つのハードウェアで、本センターはこのうち3つの検討グループに参加し、2017年に2つの技術設計書をとりまとめた。

2018年春には、主要ハードウェアのひとつである「液体アルゴン電磁カロリメータ(LAr)」に関する国際ワークショップ「LAr week 2018」が本学で開催された。日・欧・米を中心に研究者約50名が一堂に会し、アップグレードの具体的な計画について議論が行なわれた(写真はこのときの会議の様子)。

LAr プロジェクトリーダのMartin Aleksa氏。会議全体の指揮。チームを統制し、各研究者や開発ユニットに指示する。

本学で開かれた「LAr week 2018」の様子。ATLASグループの世界的な研究者が集まり、「液体アルゴン電磁カロリメータ(LAr)」のアップグレード計画について活発な議論が行なわれた。

なぜ「巨大な加速器」が
必要なのか?

ヒッグス粒子は、CERNが誇る世界最高エネルギーの円形加速器LHCを使って発見された。全周は約27km、巨大な加速器だ。

加速器とは、粒子を加速させて運動エネルギーを高める装置のこと。高いエネルギー下で、素粒子はさまざまな振る舞いを見せる。微細な素粒子を見るために巨大な設備が必要になるのは、「小さなものを見ようとすればするほど、より高いエネルギーが必要になる」ためだ。加速器は「巨大な顕微鏡」ともたとえられる。

素粒子物理学の歩みは、加速器開発の技術の進展なくして考えられず、1930年代ごろから加速器が使われるようになった。LHCでは、複数の素粒子からなる陽子を時計回りと反時計回りに、それぞれ光速近くまで加速して正面衝突させ、それによって世界最高の衝突エネルギーを実現している。衝突エネルギーをさらに高めた第2期実験(Run2)の後には、陽子の衝突頻度を高める第3期実験(Run3)に加え、さらなる性能改善が2030年代まで計画されている。

LHCでつくり出される高エネルギー状態は、138億年前の宇宙誕生時に起きたビッグバン直後の状態に近いと考えられている。ほんの一瞬ではあるものの、宇宙誕生から約1兆分の1秒後の世界を再現することで、現在の宇宙ではもうほとんど見られない粒子や状態を観測することができる。それを検出するのが、ATLASやCMSなど、LHCに設置された検出器だ。LHCでつくられたヒッグス粒子を、ATLASとCMSで検出し、世紀の発見に至った。

LHC全景イメージ図。4つの巨大な検出器ATLAS、CMS、ALICE、LHCbが、衝突によって生まれた粒子をとらえる。

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