What’s On!

INTERVIEW

多くの人と協力して、一つのことを成し遂げる喜び2021.05

小林 暁(こばやし さとる)MEG実験(森研究室)博士課程3年

どのような研究に取り組まれていますか?

MEG実験をアップグレードさせたMEG II実験の準備・立ち上げに参加しています。MEG実験は、μ粒子がγ線と陽電子のペアに崩壊する「μ→eγ崩壊」という未発見の物理現象を探索します。この現象は標準理論では起こりませんが、超対称大統一理論では数千億~10兆回に1回程度起こると予想されています。

μ粒子の通常の崩壊では、1つの陽電子と2つのニュートリノが生じ、3粒子は異なる3方向へ飛びます。一方、μ→eγ崩壊では陽電子とγ線がそれぞれ逆方向に飛ぶという違いがあります。したがって目的の事象の探索には、陽電子やγ線が出た方向や発生時間、エネルギーなどを高精度に検出することが重要です。

私は修士の頃から一貫して、MEG II実験用の液体キセノンγ線検出器の研究に取り組んできました。この検出器は、γ線と液体キセノンとの相互作用によって生じたシンチレーション光を内壁の光センサーで検出し、γ線の位置やエネルギー、時間を再構成します。前身のMEG実験では、PMT(光電子増倍管)を光センサーに使っていましたが、MEG IIではその一部をより小型のMPPCという半導体光センサーに置き換えます。これにより、観測するγ線の位置やエネルギーの分解能を大きく向上させることができます。

検出器はすでに建設されていますが、私はγ線の測定精度をさらに改善するため、MPPCやPMTの応答の較正を行なったり、MPPCを500μmの精度で配置するための測定方法を開発したりしました。そして実際にビームを使って位置分解能の性能評価を行なった結果、位置分解能が従来の2倍向上したことが確かめられました。

その成果を日本物理学会2020年秋季大会で発表したところ、学生優秀発表賞を受賞することができました。新たに創設されたこの賞の最初の受賞者に選ばれたことは大変光栄であり、うれしく思います。

ポールシェラー研究所(PSI)でMEG II実験測定器の性能評価を共同研究者とともに。

ICEPPに進学された理由を教えてください。

小学生の頃から両親に日本科学未来館や科学技術館などに連れて行ってもらい、科学の面白さを知りました。やがて、すべての現象を扱える物理学に興味を持つようになり、東京大学物理学科に進みました。

素粒子については昔から関心が高かったものの、物理分野の中で何をやりたいかは決まっていませんでした。ですが学部3年生の時、前センター長の駒宮先生から研究室紹介を受けた際、研究内容とユーモアを交えたトークが非常に面白くて、駒宮先生の研究室に入りました。

そこで分かったことは、素粒子実験は多くの人が携わって一つのことを成し遂げる研究分野だということでした。学部生の時に体育会系の部活に打ち込んでいたこともあり、組織のなかで仕事をすることには多少自信がありました。研究内容が魅力的なのはもちろん、自分の適性も活かすことができる素粒子実験の分野が自分に向いていると思い、ICEPPへの進学を決めました。

実際にICEPPに進学して、生まれて初めての一人暮らしをスイスで行ないながら、各国からやって来た研究者やスタッフと議論を重ね、協力してMEG II実験の準備を進めており、非常に充実感を覚えています。

2019年1月、東京大学で開催したETHZ戦略的パートナーシップシンポジウムでの素粒子グループの集合写真。

今後の展望を教えてください。

MEG II実験で取り組んでいる物理は、「荷電レプトンフレーバー保存の破れ」という未知の現象を探索するものです。こうした実験は現在、MEG以外にも世界で大きなものが複数進行中です。標準理論を超える新物理を探る上で、「レプトンフレーバー物理」は近年一層重要視されています。今後どのような新物理モデルが正しいことになっても、MEG II実験でやっている物理は必ず重要となるので、大きなやりがいを感じています。そうした新しい実験を行なうには、新しい機械や技術、新しいコンセプトが必要なので、それらを貪欲に吸収して成果を挙げたいと思います。

SHARE

CONTENTS