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INTERVIEW

さまざまな強みを持つ仲間に恵まれている2022.05

村田 樹(むらた たつき)ILC計画(大谷研究室)博士課程1年

どんな研究をされていますか?

ILCで使われる測定器の研究開発を行なっています。2030年代後半の稼働開始を目指すILCでは、電子と陽電子を光速近くまで加速して正面衝突させて、ヒッグス粒子を始めとするさまざまな粒子を作り出します。それを詳細に観測して、標準理論を超える新物理や新粒子を見つけ出したり、宇宙や物質の誕生の謎に迫ったりすることがILCの大きな目的です。

ILCで作られる2種類の測定器のうち、日欧が中心となって開発しているのがILD(International Large Detector)です。これは複数の測定装置が層状に重なった構造をしていて、そのうちの1つが電子や光子のエネルギーを測定する電磁カロリメータ(ECAL)です。私はECALの候補の1つであるシンチレータ電磁カロリメータ(ScECAL)を研究しています。

ScECALは、検出層部分にシンチレータ(荷電粒子との相互作用で光を発する物質)を用いるECALです。シンチレータが励起されることで生じる光(シンチレーション光)を、半導体光センサーであるシリコン光電子増倍管(SiPM)を用いて信号として読み出すことでエネルギーを測定します。しかしSiPMに一度に大量の光子が入射すると、検出上限を超えて飽和してしまいます。そこで、SiPMに光子を直接当てて飽和現象を起こし、その飽和曲線を測定する研究が以前も行なわれていました。これに対して私は、シンチレータに光子を打ち込んでシンチレーション光を発生させ、それをSiPMで検出するという、実際の環境により近い飽和曲線を測定することに成功しました。この成果を使うことでより正確なエネルギー再構成が可能になると期待されます。

また私は、中国で建設されているScECALの大型プロトタイプの性能検証試験にも携わっています。そこで使われているシンチレータは45mm×5mmのストリップ状で、縦横交互に並べて格子状にすることで仮想的な5mm角の超高精細度が実現できます。そのシンチレータのどこにSiPMを取り付けるとより高い精細度が実現できるかについても、修士課程で研究しました。

ICEPPに進学した理由を教えてください。

もともと宇宙や素粒子に興味があり、大学院ではそうした研究をしたいと考え、さまざまな分野の説明会に参加したり、先生方に話を聞きに行ったりしました。そうしたなか、ICEPPの説明会でILCの話を聞いたのですが、それまでILCの存在は知っていたものの、もっと将来の計画なのかと思っていました。ですが建設候補地が決まっていたり、すでにILCの研究室もあるということを恥ずかしながら初めて知りました。素粒子研究であれば標準理論を超える新物理の探索をぜひしたいと思っていたので、それが可能なILCに行くしかないと思いました。自国の日本で大規模な国際素粒子実験ができるという点も志望理由の1つでした。

ICEPPの魅力はどこにあると思いますか?

ICEPPではATLASやMEGの国際共同実験や、最近では量子コンピュータの研究なども行なわれています。そうしたILC以外の研究をしている同期や先輩、先生方と話す機会が多いので、別の視点から自らの研究のアイデアをもらえることが多々あります。

たとえばATLASの研究をしている同期からは、素粒子実験のノウハウを聞くことができました。ATLAS実験は歴史が長く、素粒子実験の流れが確立していますので、非常に参考になります。またMEGや量子コンピュータに関わっている同期からは、私が解析方法で悩んでいる時にアドバイスをもらいました。身近にさまざまな強みを持つ仲間がたくさんいるメリットを活かして、ScECALがILDに採用されるように、博士課程でも研究に励みたいと思います。

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