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INTERVIEW

世界最高の実験のために、世界最高の検出器をつくる2020.07

宇佐見 正志(うさみ まさし)MEG実験(大谷研究室)博士課程3年

どんな研究をされていますか?

MEG II実験の準備・立ち上げに参加しています。この実験は、μ粒子という素粒子が陽電子(e+)とγ線に崩壊する事象を、世界最高感度で観測しようというものです。この崩壊は、既存の素粒子物理の枠組みを超えた「超対称大統一理論」のなかではごく稀に起こると予言されています。しかし、いまだ実験的には見つかっていません。すなわち、これが実験で観測されれば、新物理の決定的な証拠になるのです。

2021年開始を目指しているMEG II実験は、前身のMEG実験からのアップグレード実験であり、検出器も一新しています。私の研究テーマは、新しい陽電子検出器の製作や運用、そして検出器を使ったデータ解析がメインです。MEG II実験は中規模の実験なので、ハードウェアとソフトウェアの両方の研究を手掛けることができます。研究の幅を広げ、自分の研究力を向上させることができました。

陽電子検出器を構成する陽電子タイミングカウンターでは、μ粒子からの崩壊粒子が大量に当たることで機器が損傷し、性能が悪化する「放射線損傷」という現象が指摘されていました。その詳細を調べ、その対策を講じたことが私の研究成果のひとつです。放射線損傷によって増加するノイズが温度に依存するため、低温にして運転すれば損傷による影響をほぼ無視できるレベルまで抑えられることを、実験によって明らかにしました。

陽電子の発生時刻を測定するタイミングカウンターの開発風景。©MEG Collaboration

この問題を解決するうえで、修士1年のころは実験装置や放射線損傷への理解が足りず、一人で悩んでいました。修士2年に上がり、自分の理解が深まってきたこともあり、他のメンバーとの積極的な議論を心掛けました。メンバーは、世界各国から集まっているエキスパートたちです。議論を通じて、自分のなかで疑問がどんどん解消されていくとともに、自分が悩んでいることを伝えると、周囲のメンバーはさまざまな助言や手助けをしてくれました。こうして実験がうまく回り始め、いい実験結果が出て、成果を挙げられるようになりました。国際的な環境で物事を前に進めるには、コミュニケーションが非常に大事だと体感することができました。

ICEPPに進学した動機を教えてください。

学部4年の時に素粒子実験をやってみて、非常に面白いと思いました。ICEPPに興味を持ち、ガイダンスを聞きに行ったのがきっかけです。最初はATLAS実験をやりたいと思っていましたが、大谷先生がMEG II実験の紹介をされたときのお話が非常に印象的でした。「世界最高の実験をするには、世界最高の検出器をつくる必要がある。検出器を自分でつくって自分で運用するのは楽しい」というお話で、それが心に響いて大谷研究室に入ろうと決めました。

実際に進学すると、世界最高の検出器をつくるには地味な作業も多く、大変だと思うこともありました。でも、自分でつくった検出器で、データを初めて取れたときの喜びは、何物にも代えがたいものです。

2018年4月、東京大学で開催した国際ワークショップに参加した日本・スイス・イタリアの研究者・大学院学生ら(本人、写真左)。©MEG Collaboration

今後の展望をお聞かせください。

私は素粒子実験を通してハードウェアにもソフトウェアにも関わり、幅広い能力を身につけることができました。なかでも、ソフトウェアのデータ解析が非常に面白いと感じています。データを集め、自らの手で加工して可視化し、結果を導くプロセスに魅力を感じています。

こうしたデータ分析の能力は、素粒子実験だけでなく、広く社会全体で必要とされています。私自身の気持ちとしても、新しいことに挑戦したい思いが強くなっていて、企業に就職してデータ分析の仕事に就きたいと考えています。自分の能力を発揮して、社会に貢献できるようになりたいと思っています。

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