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MEG実験:独自開発の実験装置を一新、「超対称大統一理論」に挑む2018.06

MEG実験は、標準理論を超える「超対称大統一理論」の検証を主な目的とする。実験の舞台は、スイス・チューリッヒ近郊のPSI(ポールシェラー研究所)。1999年に本センターの研究者が中心となってPSIに提案・採択された国際共同実験だ。日本チームは検出器の主要部分の開発と、研究全体の統括にあたる。

超対称大統一理論では、電子やμ粒子(ミューオン)などの荷電レプトンで、ごく稀に世代混合が起こると想定されている(荷電レプトンフレーバー保存の破れ)。MEG実験は、μ粒子が陽電子(e+)とγ線に崩壊する事象(μ→eγ崩壊)を探索し、新物理の兆候の発見を目指す。最初の実験は2008年から2013年にかけて行なわれ、崩壊事象を世界最高感度で探索したが事象は確認できず、新物理に対して厳しい制限を与えた。その後さらに、実験感度を10倍高めるMEG II実験がPSIに承認され、準備が進んでいる。

ごく稀にしか起こりえない崩壊事象の探索には大量のミューオンが必要だ。一方、大量のミューオンからは、背景事象となる陽電子やγ線が頻繁に放出される。そのなかから目的の崩壊事象を精度よく探索するため、研究者たちは次の3つの基本戦略を立て、すべての装置を自ら設計・開発した。(1)PSIの世界最大強度のミューオンビームを活用。(2)大量の陽電子を効率的に処理して精度よく測定。(3)γ線をこれまでにない精度で記録。

(2)の役割は、「COBRA陽電子スペクトロメータ」が受け持つ。特殊な磁場勾配で陽電子を効率的に処理する「超伝導電磁石」と、陽電子の飛跡を記録する「ドリフトチェンバー」、陽電子の発生時間を測る「タイミングカウンター」の3つからなる。

(3)の役割を担うのが「液体キセノンγ線検出器」だ。従来とは異なる独自の発想にもとづき、光機器の世界的メーカーである浜松ホトニクスと共同開発したセンサーを使う。このセンサーは、今では暗黒物質(ダークマター)探索などにも使われる標準技術となっている。

MEG II実験でも先の基本戦略を継承・発展し、ドリフトチェンバーとタイミングカウンターを完全に新調、γ線検出器の性能も向上させた。PSIのミューオンビーム強度もさらに高める。2018年には装置を完成させ、本格実験に向けて試験運転の開始を目指す。

MEG2実験概要図
a-c [Liquid xenon photon detector] 日本チームが開発に取り組む。MEG II実験では、γ線入射面(写真c右側)の光電子増倍管を新たな光センサーMPPCに置き換え検出精度を2倍に改善。
a-b 開発チームのメンバーたち。
c 液体キセノンが満たされる検出器内部。写真右側がMPPC、中央上下と左側が光電子増倍管。
d-e [Timing counter] 陽電子の発生時間を測定。COBRA陽電子スペクトロメータの一部。MEG II実験ではドリフトチェンバーとあわせて完全新調し、陽電子検出精度を2倍に改善。日本とイタリアの共同開発。
f-g [Radiative decay counter] 背景事象のγ線同定装置。日本チームの発案・開発によりMEG II実験から新規導入。
h [Drift chamber] 陽電子の飛跡を記録。COBRA陽電子スペクトロメータの一部。イタリアグループが開発。

本学に集まったMEG実験のメンバーたちと赤門前で。

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