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ATLAS実験祝ビーム衝突データに基づいた1,000編の論文出版 2021.12

ATLAS実験グループは、LHCのビーム衝突データを用いた1,000編の論文に込められた創造性、豊かさ、科学的インパクトは称賛に値すると考えます。この研究は、LHCの姉妹実験で行なわれた研究と合わせて、これまでの物理研究では前例のない、多様な物理プログラムを象徴するものです。
(ATLAS, Katarina Anthony氏による執筆記事の和訳)

2021年6月18日、ATLAS実験グループは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の衝突データを使った1,000番目の論文を発表しました。LHCが世界最高エネルギーで陽子ビームを衝突し始めてから10年以上が経過しました。この間LHCは、これまでの加速器実験の中で最も豊富な物理データを生み出してきました。

ATLAS実験に携わる物理学者たちは、この宇宙に関する情報の宝庫を探求し続けてきました。これらの科学的な貢献は、ヒッグス粒子の発見とその特性の研究、これまでにない高エネルギー過程の観測と測定、基本粒子の特性と生成率の精密測定、フレーバー物理と重イオン物理の探求など、新しい物理現象の深遠かつ広範な探索や、数え切れないほどの新しい解析方法とアルゴリズム開発など、多岐にわたっています。ATLASの研究プログラムを以下のタイムラインでご紹介します。

HIGHLIGHTS FROM THE ATLAS COLLABORATION’S 1000 COLLISION PAPERS
※本ウェブサイト掲載の年表には、2010年以降の物理結果が時系列で紹介されています。

今回1,000本の論文を出版したというマイルストーンは、これらに貢献した何千人ものATLASコラボレーションメンバー(現役・OB)の業績にスポットライトを当てる機会となりました。検出器の建設、保守・運用、データ解析、トリガー、ソフトウェア、コンピューティングなど、ATLASのデータ取得と利用に必要とされる様々な作業を通じたチームワークの賜物です。ATLASスポースクパーソンのAndreas Hoecker氏は、

「ATLASコラボレーションは、1,200人の博士課程の学生と約3,000人の科学論文の著者を含む、様々な経歴を持つ世界中の5,000人以上のメンバーで構成されています。ATLASコラボレーションは、彼らの努力によってATLAS検出器の潜在能力を十分に引き出し、これらの重要な結果を発表することができました。さらに、高度な訓練を受けた加速器物理学者、エンジニア、技術者の想像力とプロフェッショナリズムを拠り所としたLHCとCERNの加速器群の卓越した性能がなければ、このようなことはできませんでした。」

と語りました。

ATLASの最も有名な成果のひとつは、素粒子物理学の標準理論を構成する最後のピースである「ヒッグス粒子」の発見です。ATLASがLHCのビーム衝突を記録し始めた2009年当時、ヒッグス粒子の存在は実験的に確認されておらず、素粒子に質量を与えるための枠組み全体は未確認でした。しかし、2012年にATLASとCMSの両方のコラボレーションによってようやくヒッグス粒子が発見され、現在ではその研究が素粒子物理学の全く新しい分野のテーマとなっています。ヒッグス粒子は、その性質や相互作用を正確に測定するだけでなく、新しい物理現象を探索するための強力なツールとなっています。

2012年7月「ヒッグス粒子」の発見

超対称性の兆候や暗黒物質を構成する可能性のある新粒子など、このような探索もATLASの1,000編の衝突論文で検討された重要なトピックに含まれます。現在のところ新しい現象は観測されていませんが、これらの探索は高エネルギー物理学に永遠の足跡を残しています。基本的な物質の構成要素や力の記述について、現在の不完全な理解を超えて拡張した理論モデルは、実験的に新粒子が観測されなかったことにより、場合によっては打ち砕かれました。膨大なバックグラウンドプロセスから微小な潜在的シグナルを最適に分離するために考案された高度な解析技術は、当初の意図をはるかに超えて応用されています。

2018年8月24日
実験的に困難だったヒッグス粒子がボトムクォーク対へ崩壊した事象を初観測

また、研究者たちは弱い力と電磁気力を運ぶ粒子の直接散乱など、これまでに観察できなかった主要な素粒子物理プロセスの研究をできるようになりました。さらに多くの物理過程が、当初、陽子加速器で到達できると考えていたのに比べて、はるかに高い精度で測定されました。ATLASの物理コーディネータであるStéphane Willocq氏は、

「いくつかの結果は、CERNの大型電子陽電子衝突型加速器(LEP)など、これまでの “精密機械 “が打ち立てた記録を上回っている。」

と述べています。LHCは “発見のマシーン” として複合粒子を衝突させて複雑な衝突現象を引き起こすため、精密測定を行なうには不利だと考えられていました。しかしながら、膨大なデータに革新的なキャリブレーション技術を適用することで、我々研究者は期待以上の成果を上げることができました。」と述べています。

2020年10月27日
カラー荷を持つ超対称性粒子探索に、高度な解析技術を用いて重要な制限を発表

ATLAS実験の研究の中でも特に革新的だったのが、クォーク・グルーオン・プラズマと呼ばれる高温・高密度の物質の状態を調べる重イオン物理のプログラムです。

「重い原子核の衝突を調べるための新しい技術を開発しました。小規模ながらも活発な研究コミュニティがあります。」

Stéphane氏は付け加えます。「彼らの研究は、ATLASのような “汎用 “検出器が、このような専門的な研究分野に貢献できることを示しています。2010年の中心部の重イオン衝突におけるジェット・クエンチングの発見や、2019年の周辺部の重イオン衝突の極端な電磁場における光の散乱の観測は、この成功したプログラムのハイライトのうちの2つに過ぎません。」

発表論文数が1,000に達したことは祝福に値しますが、これらの論文の背景にある研究にこそスポットライトが当てられるべきです。ATLASコラボレーションは、LHCでの研究を継続し、高輝度LHCという強力な第2フェーズに向けて準備を進めています。今後10年間でさらに1,000のステップを踏むことになります。

このページは、CERN ATLAS実験のウェブサイトに掲載された記事を和訳・紹介させていただきました。
ATLASウェブサイト・原文:https://atlas.cern/updates/news/1000-collision-papers

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