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INTERVIEW

互いに助け合い、国際共同実験に取り組む喜び2022.05

松下 彩華(まつした あやか)MEG実験(大谷研究室)修士課程2年

どのような研究に取り組まれていますか?

スイスのポールシェラー研究所(PSI)を拠点に行なわれるMEG II実験の準備や立ち上げに携わっています。MEG実験は電子の仲間であるμ粒子が、陽電子とγ線に崩壊する「μ→eγ崩壊」を探索する実験です。標準理論では起こらないとされるこの現象を確認できれば、新物理の大きな兆候となります。MEG実験をアップグレードしたMEG II実験は、2022年度からのスタートを目指しています。

μ→eγ崩壊の探索には、γ線のエネルギーと運動量を正確に知る必要があり、その検出を行なうのが液体キセノンγ線検出器です。私は検出器の時間分解能をより正確に知るための研究をしています。

検出器の較正には、チャージエクスチェンジ(電荷交換)が利用されます。これは、液体水素のターゲットにπ粒子のビームを当てると、2つのγ線がそれぞれ正反対の方向に放出される反応です。2つのγ線の一方を、液体キセノンγ線検出器の反対側にあるカウンターで測定し、カウンターと液体キセノンγ線検出器の測定値から、液体キセノンγ線検出器の時間分解能を求めます。

その際に私は、液体キセノンγ線検出器側にも同じカウンターを製作して設置しました。これにより、従来はシミュレーション値を用いていたターゲット上での相互作用の大きさを実測値に置き換え、時間分解能をより正確に知ることができるのです。

チャージエクスチェンジのエンジニアリングランは2021年12月に実施されましたが、思わぬトラブルもありました。他国のグループが行なっていた液体水素のターゲットの準備が難航してスケジュールが遅れ、十分なデータ数を得られなかったのです。しかし、自分が製作したカウンターでデータが取得できたことは喜びであり、またトラブルも貴重な経験になったと思っています。

森・大谷研究室の先輩とともに
輻射崩壊同定用カウンターの開発打合せ

ICEPPに進学し、MEG実験を選んだ理由は?

子供のころから算数や数学が好きでしたが、高校のときに数学を究めるよりも数学を使う学問に興味を持ち、大学は物理系に進みました。宇宙や素粒子に興味があり、当初は理論志望だったのですが、学部2年の夏にKEKの一般公開に行き、加速器や測定器の実物を見て、素粒子の実験に興味を持つようになりました。

素粒子実験のなかで候補を絞る際には、実験に関わる全員の「顔」が分かる、つまり各自が何を担当しているかが分かるくらいの規模の実験をしたいと考えました。中規模のMEG実験はそれに最適だと思えたのです。さらにMEG II実験はスタート目前であり、今後のデータ取得にも関わることができるという絶好のタイミングでしたので、MEGに来たくてICEPPを選びました。

MEG IIコラボレーションのメンバー

ICEPPの魅力はどこにあると思いますか?

ICEPP進学がコロナ禍と重なったため、いつPSIに行けるのかが当初は分かりませんでした。そこで東京で検出器のデバイスの挙動について調べたり、MEG II実験のさらに先の実験についての研究を始めたりしていました。秋になってようやくPSIに行けることになり、初めての海外生活を送ることになりました。

さまざまな国から来ている研究仲間はみなフレンドリーで、初めて来た私のことを気にかけてくれ、アドバイスをもらえています。それぞれが分業制で研究を行ないつつ、互いに助け合って実験全体を進めていく国際共同実験がとても楽しく、MEGに来て良かったと思います。

歴史的な建物が並ぶ旧市街で開催されるスイス最大規模のクリスマスマーケットに

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