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INTERVIEW

検出器の理解を深め、将来の物理解析に活かす2022.05

青木 匠(あおき たくみ)ATLAS実験(石野研究室)博士課程1年

研究内容を教えてください。

将来のLHC-ATLAS実験で使われる検出器の研究に取り組んでいます。CERNのLHCでは、陽子と陽子を世界最高エネルギーで衝突させて、新粒子の探索や標準模型の精密測定などをする実験が行なわれています。2022年度から第3期実験が始まりますが、さらにその先、2029年度から第4期の「高輝度LHC」実験が計画されています。これは現在の約3倍の輝度(ビーム中の粒子同士が衝突する頻度を表す値)を実現するもので、ATLAS検出器も大部分を一新するアップグレードが行なわれます。私はこの研究に携わっています。

LHC-ATLAS実験では、約1,000億個の陽子が入ったバンチ(塊)同士が25ナノ秒ごとに衝突し(毎秒4,000万回の衝突)、さまざまな粒子が生成されます。そのすべての事象を記録するのは不可能なうえ、興味がある事象は非常に稀にしか起こりません。そのため、興味深いと思われる事象だけを判定・選択して記録するトリガー(引き金)システムが非常に重要になります。

計測システム研究会2021で研究成果を発表

ATLAS検出器の最外層には、陽子同士の衝突によって発生したミューオンをとらえるシンギャップチェンバー(TGC)検出器があります。私はTGC検出器のトリガー機構などに関係するエレクトロニクスの刷新に取り組んでいます。具体的には、ミューオンが発生した興味深い事象はどの陽子バンチ衝突に由来するかを正確に決めるため、検出器の前段回路のクロックの位相を20ピコ秒の刻み幅で制御・測定するシステムを開発しました。さらに前段回路、後段回路を含めたTGC検出器の全回路のエレクトロニクスの統合試験なども行ない、システム全体が正しく動作するかどうかを検証しました。

システム開発は、自分で回路をプログラミングし、その動作を確認して、エラーが出れば問題点を見つけ出して改善することの繰り返しです。非常に時間がかかりますが、自分のプログラミングによって実際の回路の動作が変わっていく点は非常におもしろいです。

ICEPP(本センターの略称)に進学された理由は?

大学院で素粒子実験をしたいと思っていましたが、LHC-ATLAS実験の中で日本グループがどんなことをしているのかは詳しく知りませんでした。ですがICEPPの進学ガイダンス終了後の懇談会で、現在の指導教官である石野教授にトリガーの重要性について教えていただきました。現行のATLAS実験において実際に記録されるのは全事象のわずか4万分の1であるということに驚き、実験の成否を左右するトリガー機構の研究がICEPPで行なわれていることに強く興味を持ちました。

LHC-ATLAS実験のような巨大な素粒子実験に加わって、大学院生が何をできるのか、不安に思う学生は少なくないかもしれません。ですがICEPPでは、私の現在の研究テーマのように、大学院生がさまざまな人と協力しながら主体的に進めることができ、しかも実験の遂行に不可欠な、重要な部分を任せてもらえます。

高エネルギー加速器研究機構(KEK)で実施したTGC検出器エレクトロニクス制御に向けた試作機統合試験

今後の展望を教えてください。

博士課程では、現在のハードウェアの研究から、実験データの物理解析を行なう研究に少しずつシフトする予定です。大胆なことを言えば、それこそ世界で初めての発見ができるような研究がしたいと思っています。

物理解析を行なう上では、検出器に対する深い理解が大事になります。たとえばトリガー機構がどうなっていて、どのような事象が選び出されて記録されているのかが分かっていなければ、適切な物理解析はできません。ですから将来は物理解析を行ないたいと考える方も、一度ハードウェアに携わり、検出器の仕組みや動かし方を理解し、新しいシステムの開発などを行なうのも良いと思います。ICEPPはそれができる研究機関ですので、ぜひとも進学先の候補として考えてみてください。

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