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INTERVIEW

中規模実験で、自分の存在感を発揮する2019.07

小川 真治(おがわ しんじ)MEG実験(森研究室)博士課程3年

どのような研究に取り組まれていますか?

MEG実験をアップグレードさせたMEG II実験の準備・立ち上げに携わっています。実験の目的は、μ粒子がγ線を出しながら陽電子(e+)に崩壊する「μ→eγ崩壊」の探索です。超対称大統一理論では、この事象が数千億~十兆回に一回程度起こると予測されています。2008年から実施していたMEG実験の結果、その発生頻度が2.4兆回に1回未満であることが分かりました。MEG II実験では観測感度をさらに1桁高め、数十兆回の頻度でこの事象が起こるかを探索します。そのために、検出器や解析手法の新規開発や性能改善に実験グループ全体として取り組んでいます。

ごく稀にしか起こりえない「μ→eγ崩壊」を探索するには、大量のμ粒子が必要です。しかし大量のμ粒子からは、背景事象となる陽電子やγ線も数多く発生します。つまり、「μ→eγ崩壊」事象の発生を突き止めるには、大量の陽電子やγ線のなかから、「μ→eγ崩壊」に由来するものを明確に識別しなければなりません。そのために、陽電子やγ線の出た方向や発生時間、エネルギー量などを高精度に検出することが必要となるのです。MEG IIで新たに導入される「輻射崩壊検出器(Radiative Decay Counter)」は、RMDと呼ばれる背景事象から発生したγ線を同定する装置です。日本チームが発案・開発し、多くの学生も開発に携わっています。

また、γ線をかつてない精度で測定するために、「液体キセノンγ線検出器」のアップグレードも行なわれます。γ線がキセノンにぶつかって生じる光(シンチレーション光)を捉える検出器で、私はその開発に携わっています。従来の検出器では、PMT(光電子増倍管)を光センサーに使っていましたが、MEG IIではこれをMPPCという半導体光センサーに置き換えます。センサー1個あたりの面積を12mmに小型化することで、捉えるγ線の位置やエネルギーの分解能を向上させることができます。私はMPPCの性能試験、大量生産された素子の全数試験、検出器の立ち上げなどを行なってきました。

また、検出器の再構成手法の改善も私の研究テーマの1つです。光センサーの信号の情報から、もとのγ線の情報を引き出すことを「再構成」といい、そのために私たちはソフトウェアを使います。そのソフトウェアのさまざまな改善も行なってきました。

ICEPPに進まれた動機や、進学後の感想などを教えてください。

中学生のときに『ホーキング、宇宙を語る』(早川書房)を読んで、素粒子や宇宙に強い興味を持ちました。どちらを研究するかは悩みましたが、素粒子は加速器で実際に観測対象を作り出して研究を進めることができます。その点に魅力を感じ、素粒子実験の道を歩もうとICEPPに進学しました。

現在は1年のうち10ヶ月くらいはスイスのPSI(ポールシェラー研究所)にいます。日本とは文化や習慣が異なる場所で暮らし、研究でも英語を日常的に使います。国際会議で英語で発表する機会も増えました。こうした「未知の場所で何かをする」経験は、自分を大きく成長させてくれたように思います。

液体キセノンγ線検出器の内層部に新開発のMPPCを敷き詰める。

学部生の皆さんへのメッセージを。

進学先を選ぶ際は、「研究を通じて何を成し遂げたいのか」をよく考えることが重要です。私は中規模の実験で存在感を発揮して成長したいと考え、MEGを選びました。皆さんもそれぞれの判断で、悔いのない選択をしてください。大学院に進むと研究で忙しくなり、研究以外のことに時間を割く余裕がなくなります。私自身はあまりできなかったのですが、学部生のうちにいろいろな分野に目を向けられるといいかもしれません。

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