困難こそが、研究の醍醐味であり成長の糧
研究内容を教えてください。
スイス・チューリッヒ効外のPSIで、「超対称大統一理論」を検証するMEG実験に携わっています。超対称大統一理論では、荷電レプトンのフレーバー(世代)のごく稀な混合(荷電レプトンフレーバー保存の破れ)が想定されています。本実験では、μ粒子が陽電子(e+)とγ線に崩壊する「μ→eγ事象」の探索を行なっています。
MEG実験は2013年に第一期実験を終え、現在は実験感度をさらに高めたMEG II実験の準備が進められています。MEG II実験では陽電子やγ線の検出などを行なう検出器をほぼすべてアップグレードする計画です。2018年中には検出器の組み上げが完了し、エンジニアリングラン(試験運転)が始まる見込みです。
MEG II実験装置はいくつかの検出器から構成されていて、私はそのなかの「液体キセノンγ線検出器」と「輻射崩壊検出器」の開発に携わっています。前者は文字通りγ線の検出器です。後者は、実験中に背景事象として発生するγ線を同定し、「μ→eγ事象」から発生するγ線を確実に捉えるための装置です。私は前者の性能評価を行なうための測定器の開発や、これら2つの検出器の性能評価を行ないました。後者のカウンターは、μ粒子ビーム下流側のものはすでに開発されていますが、今後は上流側に使用するものの開発にも取り組んでいきます。
第7回「高エネルギー物理春の学校」で優秀賞を受賞。受賞テーマは「シリコン検出器におけるNeural Networkにおける飛跡再構成」。
修士課程の1年間を終え、研究生活でいちばん印象に残っていることをお聞かせください。
修士1年の7月からスイスに渡り、液体キセノンγ線検出器の「時間較正用カウンター」の開発に取り組んでいたときのことです。開発の初期段階で躓いてしまい、研究結果の発表を行なう学会が近づいても、想定されていた性能には程遠い状態にありました。粘り強く原因究明と問題解決に取り組んだ末、ようやく十分な性能のカウンターを自分で開発できたときの喜びは言葉に換え難く、大きな自信にもなりました。
素粒子物理学実験の道に進まれたきっかけは?
普段の講義から素粒子に興味がありました。最終的な決め手は、大学3年の夏にKEK(高エネルギー加速器研究機構)で開催された「サマーチャレンジ」の素粒子コースに参加したことです。そのときの素粒子実験での体験が、大学院進学への大きなモチベーションになりました。ただ実験をこなすだけでなく、仮説をいかに実験結果によって証明するか、実験前に長時間の議論を行ないました。実験を組み立てる大変さを知ると同時に、そのやりがいや面白さも感じることができました。
大学院に進学されて、ご自身の変化や成長をどう感じておられますか?
素粒子物理学は女性が少ない研究分野なので、うまくやっていけるか最初は不安もありましたが、研究室のメンバーはみな仲がよく、楽しく研究生活を送っています。先生方や先輩方はみな研究に精力的に取り組まれていて、私が困っているときは手を差し伸べてくれます。支えられている安心感を抱きながら、研究者として成長できる環境だと感じています。
研究では、私自身がそうだったように、うまくいかず大変なこともあります。ですが、自分たちで実験を組み立て、そのための装置を開発し、結果を出せたときはほかでは得難い達成感があります。困難を乗り越えるたび、研究が楽しくなり、私自身の成長も実感しています。