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INTERVIEW

新たな技術を駆使して、新粒子探索に挑む2019.07

齊藤 真彦(さいとう まさひこ)ATLAS実験(浅井研究室)博士課程3年

研究内容を教えてください。

ATLAS日本グループの一員として、標準理論を超える新物理を探索しています。2012年にヒッグス粒子が発見され、標準理論が予言する粒子はすべて出揃いました。しかし、標準理論では説明できない実験結果や理論の不自然さがあり、標準理論よりもさらに上位の、世界を記述する新たな物理が求められています。そのなかで最有力なのが超対称性理論で、理論が予言する新粒子を発見するべく研究に取り組んでいます。

ATLAS検出器のいちばん内側には、陽子の衝突から生じた荷電粒子の飛跡を検出する「内部飛跡検出器」があります。私が捕えようとしている新粒子は、飛跡検出器内で崩壊し、飛跡が途中で消えるという特徴があります。この「消失飛跡」を効率良く捕らえ、再構成する解析手法について研究しています。

並行して、ディープラーニングや量子コンピュータを活用する研究にも取り組んでいます。現在のATLAS検出器に用いられている解析アルゴリズムは、非常に洗練されている一方で、粒子数が増えると計算に時間がかかるのが課題です。将来的にはLHCがアップグレードされる計画で、陽子の衝突回数がさらに増え、衝突によって生まれる粒子数も膨大になります。現在のアルゴリズムでは解析が追いつかなくなることが懸念され、それを解消することを目標にしています。

また、CERNではLHCの次の大型加速器、FCCの建設が計画され始めています。衝突エネルギーは、LHCの13ないし14TeVから100 TeVスケールへ大幅に増えます。そのときどのような物理が見えてくるか、シミュレーションにも取り組んでいます。

ICEPPに進学されたのは?

もともと「根源的なもの」に興味がありました。解析も好きで、進路は物理学科か情報科学科で迷った末に、「いちばん小さいもの」を「自分で解析してわかりたい」との思いから、素粒子物理学の道に進みました。そのなかでも、世界最大の加速器LHCでの実験に携われることに大きな魅力を感じ、ICEPPに進学しました。新粒子の探索や新技術の応用など、自分がやりたい研究に携わることができ、非常に充実しています。

研究生活で印象に残っていることは?

ATLAS実験には、世界38カ国、3,000人の研究者が参加しています。CERNに集まった多くの研究者と、ディスカッションを重ねながら研究を進めるスケールの大きさを実感しています。

博士課程でCERNに2年半常駐したことも大きな経験です。初めての一人暮らしを海外で始めることになったわけですから。英語が苦手なこともあり、日本と異なる文化や習慣に戸惑うこともありましたが、海外での研究と生活を通じて自分の視野が広がり、人としても成長できたように思います。現地滞在中は、日本にいたころから続けていたオーケストラに参加することもできました。研究者とは英語でどうにか話ができますが、参加したオーケストラはフランス語が基本で、指揮者の指示がまったく分かりませんでした。それでもどうにか乗り切れたことが大きな自信になっています。

CERNの東京大学オフィスでは、日常的に研究者や学生と活発な議論が繰り広げられている。

今後の展望をお聞かせください。

変化の激しいこの時代、5年後、10年後の世界を見通すことは困難です。新物理への道筋が見えているかも定かではありません。しかし、先を見通せる分野などどこにもないと思います。分からないからこそ研究する。だからこそ、「いろいろなことに対応できる研究者」を目指しています。ディープラーニングや量子コンピュータなど新しい技術を積極的に取り入れ、物事の根源に迫るべく、先進的な研究に取り組んでいきます。

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