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From alumni

自由な研究と国際経験
ICEPPは最高の研究環境だった

高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所 博士研究員

Miki Nishimura

ICEPPでは、MEG Ⅱ実験の立ち上げに関わりました。MEG Ⅱ実験は、μ粒子が陽電子(e+)とγ線に崩壊する事象を探索するMEG実験のアップグレード版です。

μ粒子は荷電レプトンの一種で、同じ荷電レプトンである電子や陽電子の約200倍の質量があります。こうした質量の違いを「フレーバー」と呼びます。標準理論では、荷電レプトンのフレーバー変更は起こり得ないとされていますが、超対称性理論をはじめとする新物理では、稀に起こるとされています。これを「レプトンフレーバーの破れ(Lepton Flavor Violation)」といい、MEG実験はその観測を目指しています。

私はMEG実験で、陽電子を測定する「陽電子タイミングカウンター」の開発に携わりました。大学院進学当時は、ちょうどMEG Ⅱ実験の立ち上げ時期で、修士1年目で開発をゼロから任せてもらえました。5カ国約60名体制で動いている中規模実験だからこそです。机の上ではんだ付けをする地道な作業から始まり、試作品をいくつもつくって性能を評価・比較したほか、ソフトウェアの開発や段階に応じたビームテストの実施など、開発フェーズをひと通り担当しました。最終的に実機を完成させ、物理結果向上に十分な成果があることを示しました。

センター在籍中は、実験の拠点であるポールシェラー研究所(PSI)があるスイス・チューリッヒに滞在していました。開発した陽電子タイミングカウンターを、イタリアの実験施設でテストするため、修士2年と博士1年のときにはイタリアにも行きました。

博士課程修了後は、高エネルギー加速機器研究機構(KEK)でBelle Ⅱ実験に携わっています。SuperKEKB加速器で電子と陽電子を衝突させ、B中間子と反B中間子をつくる実験です。実験規模が25カ国900名超と大きく、複数の物理事象を探索しています。私の研究グループでは、電子と陽電子の衝突によって生成されるτ粒子の性質を調べたり、τ粒子が3つのμ粒子に崩壊する事象やμ粒子とγ線に崩壊する事象を探索しています。τ粒子は荷電レプトンの一種で、μ粒子の約20倍の質量があります。τ粒子についても、標準理論では「レプトンフレーバーの破れ」は起こり得ないとされていますが、超対称性理論などの新物理では稀に起こるとされています。

素粒子に興味があり、海外志向もあって、ICEPPに進学しました。MEG実験を選んだのは、実験が中規模で、いろいろなことができると思ったからです。実際、自由に研究できましたし、さまざまな国の優秀な研究者から多くのことを学べました。スイス滞在やイタリア人との共同研究など、国際経験も大きな糧になっています。

プロフィール

2014年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(森研究室)修士課程修了。18年7月同博士課程修了。同年8月より現職。博士(理学)。