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From alumni

新しい物理を求めて
生き物のような加速器と格闘

高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所 助教

Kenta Uno

私は2024年からKEKの助教というポジションで、SuperKEKB加速器を用いたBelle Ⅱ実験のランコーディネータ(運転責任者)を務めています。32歳の私は歴代で一番若いランコーディネータですが、加速器の技術者や研究者の皆さんと一緒に実験を進めていく際は、最後の判断は私が下さないといけない場面が多く、責任の重大さを痛感する日々です。実験はいったん始まると数ヶ月休みなく続きます。いろいろなトラブルも発生しますし、眠れない日々も続き、とても大変な仕事ですが、やりがいをすごく感じています。「加速器は生き物、暴れ馬のようだ」とよく言われます。まだ理解できていないことが多いため、前日は調子が良かったのに、今日は良くないということもしょっちゅうです。

一方で、2024年12月27日に、SuperKEKB加速器自身が保持するルミノシティの世界最高記録を更新した時は本当に嬉しかったですね。ルミノシティというのは、加速器で粒子を衝突させた時の衝突頻度のことです。衝突頻度が上がると、それだけ大量のデータが取れるようになります。その世界記録を2年半ぶりに塗り替えたのですが、それが実験期間の最終日の深夜1時すぎのことでした。見えてきた色々な問題点を克服した末の記録達成でしたので、ホッとしたのが正直な気持ちですが、まだまだ目標値まで届いていないので頑張らないといけないなと思っています。

素粒子物理に興味が湧いたのは大学2年の頃で、ヒッグス粒子発見のニュースがきっかけです。ヒッグス粒子って何だと調べるうちに面白くなって、もっと知りたくなったんです。ICEPPに入ったのも、ヒッグス粒子が発見されて終わりじゃないんだ、さらに多くの謎がまだまだあるんだと知ったからですね。謎を解明する有力な実験の一つとしてATLAS実験があり、ちょうど重心系エネルギーを大幅に上げたRun2運転が始まることを知りました。これで新物理を探せるのなら、挑戦しないという選択はない。それが一番の理由です。

修士1年ですぐにCERNに行かされたのですが、海外旅行は韓国に行ったことがあるだけ。いざフランス行きの飛行機に乗った時は、めちゃくちゃ不安でした。でも、CERNに着けば、ICEPPの先輩たちもいるので案外大丈夫。その後は毎年出張し、2017年から2年半はほとんどの時間をCERNで過ごしました。CERNでの日々は非常に楽しく、博士論文のため帰国することになった時はかなり寂しかったですね。ATLAS実験で行った研究は、LHC加速器で取ったデータを解析して、未知の新粒子、超対称性粒子の探索でした。当時、その解析の過程で機械学習は積極的に使われていませんでした。これは、データを用いた妥当性の検証など多くのややこしいことがあるからです。実際、私は機械学習を使いたいと言っても難色を示されることが多かったです。そこで、データとシミュレーションがきちんと合っているかなどを泥臭く確認し、それを反映させた解析結果を公表しました。今では当たり前のように超対称性粒子探索で機械学習は導入されていますが、その足掛かりになったかもしれないと思っています。

私の夢は、博士の頃もそして今も、未知の現象を、新しい物理を見たいということにつきます。それが究極の目標ですが、まずはBelle Ⅱ実験をランコーディネータとして成功させて、新しい物理現象を探索したいです!それには、ルミノシティの世界記録をさらに更新することが大事です。目標値に到達できれば、異次元のデータ量が取れるようになるのですから。KEKでの今の仕事も、ATLAS実験の巨大プロジェクトに携わっていなければできていなかったと思います。海外で研究し、海外に多くの友人ができるのは自分の視野を広げてくれるので、研究職を目指さない人にとっても人生での大切な経験になるはずです。ICEPPというオンリーワンの環境に、多くの若者に興味を持っていただけたらと思います。

プロフィール

2017年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(田中研究室)修士課程修了。2020年同博士課程修了、博士(理学)。新潟大学理学部特任助教を経て、2023年6月より現職。