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稀なミュー粒子崩壊現象μ→eγを発見し、世界に先駆けて宇宙誕生時の「素粒子の大統一」の証拠を掴む
世界最高感度でμ→eγを探索するMEG II実験が開始

PSIに設置されたMEG II実験装置
液体キセノンガンマ線測定器を核に、巧みな新設計で測定器性能が大幅に改善されたMEG II実験装置(2022年7月21日撮影)

7月14日午後11時7分(中央ヨーロッパ夏時間)、ポールシェラー研究所(PSI)に設置されたMEG II実験測定器が世界最高強度のミュー粒子ビームを用いたμ→eγ探索データの記録を開始しました。

非常に稀なミュー粒子崩壊現象μ→eγを探索するMEG II実験は、昨年、アップグレードされた全ての測定器と新しく導入した読み出しエレクトロニクスが完成し、試験的な探索データ取得を行ないました。
その後、PSI加速器のメンテナンスが行なわれる2021年12月末から2022年4月の期間に、本格的なデータ取得開始に向けた各測定器の立ち上げ作業を実施しました。2022年6月からミュー粒子ビームを使った各測定器の最終調整を行なった後、7月14日に本格的な探索データ取得を開始しました。

液体キセノン測定器による背景ガンマ線事象例
取得したμ→eγ探索データにおいて高分解能液体キセノン測定器が捉えた典型的な背景ガンマ線事象

MEG II実験は、MEG実験(2008~13年)の実験感度を一桁上回る感度で新物理の証拠となるμ→eγを探索することを目指します。

宇宙創生期に実現していたとされる素粒子の大統一を記述する理論で有望視されている超対称大統一理論は、コライダー実験や陽子崩壊探索実験など多くの実験的な検証が試みられてきましたが、今のところ明確な証拠は見つかっていません。この難問に対して、東京大学がグループ全体を主導し、日本、スイス、イタリア、アメリカ、ロシアの研究者と遂行する国際共同実験は、「レプトンフレーバー物理」と呼ばれる新しい物理を切り拓き、この分野で世界の先陣を切っています。
MEG実験とMEG II実験では、PSIの陽子サイクトロンからのミュー粒子ビームの強度に大きな違いがあり、測定器性能の制限により利用可能な最大ビーム強度を落としていた先行実験に比べ、今回の実験では最大ビーム強度を利用していきます。巧みな新設計で性能を大幅に改善した測定器と強度を倍増したミュー粒子ビームを使って探索感度を約10倍改善することで、順調に行けば実験開始後数か月でMEG実験の探索感度を凌駕し、最低3年間のデータ取得により最終感度に到達する見込みです。

世界最高強度のミュー粒子ビームを生み出す陽子サイクロトロン
世界で唯一、1秒間に約1億個ものミュー粒子を作り出せる陽子サイクトロン

直近の発表資料

国際会議ICHEP2022:
2022年7月17日 招待講演 Charged Lepton Flavour Experiments

日本物理学会第77回年次大会:
2022年3月15日 発表 MEG II 実験 2021年物理ラン開始の報告と今後の実験計画

日本物理学会誌2020年第75巻第9号:
2020年9月5日 発行 最近の研究から-ミュー粒子稀崩壊現象の探索で迫る素粒子の標準理論の先の世界