研究室紹介
浅井祥仁教授(理学系研究科)/ATLAS実験・Tabletop実験
LHC第2期実験で真空・時空に関する新たな知見を得られ、我々の宇宙が準安定状態にあることが明らかになりました。この結果は新粒子・新現象の存在を強く示唆しており、宇宙初期における相互作用の統一の理解や宇宙に存在する暗黒物質の発見への期待が高まっています。2022年には第3期実験が、2029年には高輝度LHC(HL-LHC)実験が計画され、ハード・ソフトの両面で準備研究が着実に進んでいます。
世界の学術フロンティアを切り拓く卓越した研究成果を生み出すには、革新的な計算機技術の導入が重要な鍵となります。これまでの活発な国際研究交流に基づく日欧米の大局的な国際戦略で、複雑なビッグデータを精細に表現する量子コンピュータ技術の開発に取り組んでいます。日本陣営がヒッグス粒子発見に継ぐ貢献を果たせるよう、国際的な激しい競争の中で研究をリードし、新しいメインストリームを切り拓いていきます。

森俊則教授/MEG実験・ILC計画
スイス・ポールシェラー研究所(PSI)を拠点に国際共同実験MEGを推進しています。宇宙初期に実現していたとされる素粒子と力の大統一(超対称大統一理論)を検証するべく、標準理論では起こりえないμ粒子の崩壊を探索しています。
MEG実験は、大統一理論やニュートリノのシーソー理論など、超高エネルギーの物理から期待される崩壊分岐比に到達した唯一の実験として世界的な注目を集めています。現在、MEG実験を発展させたMEG II実験を開始しようとしており、実験感度を上げて新しい物理の兆候を得ることを目指しています。
私自身は、国際共同研究グループ全体を統括する実験代表者として、MEG/MEG II実験の物理研究を主導しています。また、高エネルギー物理学研究者会議(JAHEP)委員長や国際将来加速器委員会(ICFA)などの委員を務め、国内外の高エネルギー物理学の将来計画の戦略立案にも携わっています。

石野雅也教授/ATLAS実験
世界最高エネルギーの粒子加速器LHCを使って人工的に再現した宇宙初期の様子を観察しています。その成果として、新たな物理法則や新粒子を発見することを追い求めています。新発見には、「世界最高の実験装置」「優れたアイデア」「幸運」の3点セットが必要です。
LHCを使うことで1つ目の条件は自動的にクリア、しかも、圧倒的な世界一。
検出器の信号を高速処理する最先端エレクトロニクスの応用研究を通じて、新しい物理を捉えるためのアイデアを実現し、継続的に改良を重ねながら実験データを集めることで、2つ目の条件をクリアしようとしています。
そして、この最高の研究環境に世界最優秀の若者が集い、議論・競争・協力しながら一緒に新しいことを知ろうとしています。日々のクリエイティブな雰囲気は最高です。3つ目の条件、「幸運」はきっとこんなところに訪れると信じています。一緒にLHC実験をやりましょう!

田中純一教授/ATLAS実験
ATLAS実験で、標準模型では説明できない物理の直接的な手がかりを発見することを目指しています。今年から第3期実験が始まり、心機一転、新物理の発見を目指し研究をブーストする開発に取り組みます。
標準模型は手ごわく、残念ながらこれまでのデータ量や解析手法では新物理は見つかっていません。視点を変えると、これから研究を開始する皆さんに発見のチャンスがあります。
素粒子物理学実験の習得のみならず、ATLAS実験を通じて、自分に合った専門技術を磨いてもらいます。たとえば、人工知能・深層学習をデータ解析に応用する技術力は、どの分野でも重宝されます。
さらに、高輝度LHC(2029年開始予定)や将来の大規模実験に向けたコンピュータ科学の研究(スパコン、クラウド等を用いた拡張)や量子コンピュータ・量子センサーの開発に意欲のある学生さんも歓迎します。


山下了特任教授/ILC計画
ILCは、次世代のエネルギーフロンティアを担う加速器実験計画の最有力候補です。私もプロジェクトを率いる中心的役割を担い、国内の研究者、産学連携、そして国際協力のもと計画を進めています。日本の北上山地が有力候補として挙がっており、日本誘致にも力を入れています。基礎科学の意義だけでなく、科学技術の発展や人材育成に資することの理解促進を図り、実現を目指した活動を展開しています。
研究面では、ILD測定器の開発に参加し、ターゲットとなる物理現象のシミュレーションや測定性能評価を牽引しています。また、国内の大強度陽子加速器施設であるJ-PARCにて、世界最高強度での超低エネルギー中性子を用いた素粒子実験も行なっています。学外で出張授業を開催し、素粒子物理学や加速器を用いた科学研究への社会の関心と理解を高める活動にも数多く取り組んでいます。
大谷航准教授/MEG実験・ILC計画
私の研究室では、宇宙の成り立ちを支配する究極の基本法則を、粒子加速器を用いた素粒子物理の実験的手法により解明することを目指しています。活発な研究活動を行ないつつ、測定器開発から物理データ解析まで幅広くこなせる実験物理研究者の育成にも力を入れています。
研究分野は大きく次の2つです。ひとつが、超対称大統一理論をはじめ、新物理の決定的証拠となるμ→eγ崩壊事象を世界最高感度で探索するMEG実験、もうひとつが、世界の素粒子物理学の次世代基幹プロジェクトとされる国際リニアコライダー(ILC)計画です。
MEG実験では物理解析責任者として実験を牽引し、先行実験を30倍上回る感度で探索しました。現在は、究極感度でのアップグレード実験MEG IIに向けて測定器の開発・建設を主導しています。ついに始まるMEG II実験に新物理発見の期待が世界中から寄せられています。
ILC計画では、新しいコンセプトに基づいた測定器ILD用の高精細カロリメータの開発を中心に、実験の実現に向けて精力的に進めています。


奥村恭幸准教授/ATLAS実験
全く新しい自然法則の証拠を素粒子実験データから見つけるべく、ATLAS実験に参加し、国際協力・国際競争の中で研究を展開しています。
実験データを用い、素粒子の相互作用に関する考察から、時空構造・真空構造・対称性を切り口に新しい自然観の確立を目指します。データ解析に加え、実験装置の運転・開発も実験の専門家として必要不可欠な技能です。現行システムの大規模装置の運用と、将来の実験基盤技術の開拓を、同時に最前線で進める層が厚くかつ機動的なチームで研究を進めています。最先端の装置開発、実験データ収集から物理データ解析までを通じ、総合的な研究力を持つ人材の育成を目指します。
研究は日進月歩。日々生じる問題と向き合い、実験チームで知恵を絞ってアイデアを出し、限られた時間内に解決する。小さくとも確実な一歩を、スピード感を持って進めていく。そんな研究をCERNの実験現場で目一杯楽しみましょう。
澤田龍准教授/ATLAS実験
CERNのATLAS実験で、新粒子、特に超対称性理論から予想される暗黒物質候補の発見を目指しています。また、ATLAS地域解析センター計算機システムの運用に加え、高輝度LHCへ向けた計算機利用能力向上の研究も行なっています。
新粒子探索では、新粒子の寿命が長くなるようなモデルに着目しています。また、機械学習や量子コンピュータを素粒子物理学に応用することに力を入れています。機械学習を用いたソフトウェアによるトリガーを開発し、新粒子の探索能力を向上させることを狙っています。さらに、素粒子研究に応用できる量子アルゴリズムの研究と、それを実際に量子コンピュータで実行するための計算技術開発も行なっています。
こうした革新的な研究を進めるには、創意工夫と最新のデータ解析手法の融合が欠かせません。最先端のコンピューティング技術を習得・応用し、新物理を発見する意欲のある方の挑戦を応援します。


寺師弘二准教授/ATLAS実験
ATLAS実験に参加し、超対称性粒子や余剰次元の探索など物理解析を主導してきました。2029年に開始される高輝度LHCでは、現在のデータ量の数十倍に匹敵するデータを取得することで、予想外の大発見が起こるかもしれません。その発見を確実にするには、新しいコンピューティングパラダイムが必要です。
そのために、量子コンピュータを応用した量子機械学習や量子物理シミュレーションの研究に取り組んでいます。また、量子センサーを用いた精密測定によって、暗黒物質など新しい物理の世界を探索することも視野に入れています。量子計算機技術を社会実装するべく、進展させることも目標の一つです。
量子コンピュータを含む量子情報処理技術の進展は目覚ましいですが、私たちはこの技術が切り拓く世界の入り口に立っているに過ぎません。この未踏の世界に飛び込んで、新しい研究領域を開拓しようと思う方の挑戦を待っています。
研究者紹介
ATLAS実験

真下哲郎准教授
世界最高エネルギーの素粒子実験をコンピューティング技術で支える。世界150以上の研究機関のシステムを、あたかも単一のシステムのように扱えるグリッド技術を導入し、改良にも取り組む。

増渕達也助教/CERN
ヒッグスがWボソン対、ボトムクォーク対に崩壊するモードを解析し、初観測に貢献。500名のATLASヒッグス解析グループを主導し、ヒッグス粒子の精密測定に挑む。ミューオン検出器の改良も進める。

飯山悠太郎助教
量子コンピュータや機械学習を素粒子物理に応用する手法を模索する。量子デバイスの制御から、量子アルゴリズム、アプリケーション開発に至るまで、素粒子物理の知見を取り入れた研究を展開する。

野辺拓也特任助教/CERN
余剰次元など標準理論の枠組みを超えた新物理の探索と、ボソン対終状態を用いたヒッグス機構の検証を行なう。データ取得のためのオンライントリガーシステムを運用する。

Sanmay Ganguly特任助教
深層学習の素粒子物理学への応用研究に従事する。グラフネットワークをベースにアテンションなどを駆使して、ヒッグス粒子対生成事象の再構成や、より一般的な対称性の抽出手法の開発に取り組む。

新田龍海特任助教
超伝導量子ビットを用いた量子センサーの開発を行なう。また、量子センサーを用いた基礎物理実験をはじめ、暗黒物質アクシオンや高周波数重力波の探索などを模索している。

Wai Yuen Chan特任研究員
量子コンピュータの素粒子物理研究への応用を目指す。量子アニーリングと機械学習による粒子飛跡再構成に取り組む。また、ハドロンジェットの再構成やフレーバー同定への応用を模索している。

江成祐二助教/CERN
ヒッグスと第三世代のボトム、トップクォークとの結合定数の精密測定などを行なう。また、液体アルゴン電磁カロリメータの改良や、将来を見据えた新たな検出器の開発にも取り組む。

齋藤智之助教/CERN
超対称性粒子や暗黒物質の発見により、素粒子物理学の新展開や宇宙創成の謎の解明を目指す。より高いエネルギースケールの物理を探索するため、検出器やトリガーエレクトロニクスの向上に取り組む。

齊藤真彦助教
機械学習や量子コンピュータなど、新たな技術を応用することにより新物理現象の発見能力拡大を目指す。大規模データを処理するため、グリッドシステムの運用・改良にも取り組む。

森永真央特任助教
予測していない新物理現象の発見を補助するような新しいタイプの人工知能や機械学習アルゴリズムを開発する。飛跡検出器の運用や超対称性理論から予測される暗黒物質候補の探索も行なう。

陳詩遠特任助教
NISQ時代の超伝導量子コンピュータの系を使った量子多体効果の実験と、それを実現するための量子デバイスと回路開発に携わる。ATLAS実験における超対称性粒子探索では、日本の解析チームを率いる。

永野廉人特任研究員
量子コンピュータを用いた場の量子論、量子多体系のシミュレーションを目指し、手法の提案や改良、解析する物理量の提案を行なう。また、計算資源やエラーの見積もりも行ない、削減方法も研究する。
MEG実験

岩本敏幸助教/PSI
MEGII実験のランコーディネータ、テクニカルコーディネータとして実験を推進し、液体キセノンガンマ線検出器の運転・較正を担当する。実験感度をさらに高め、新物理の発見を目指す。

潘晟特別研究員/PSI
光センサーMPPCのアニーリングによる検出効率の回復手法を開発し、長期的な実験遂行に貢献する。MPPCの非線形応答の補正や画像認識によるγ線のパイルアップ事象の除去など高精度な解析も目指す。

内山雄祐特任助教/PSI
MEGII実験に備え、崩壊するμ粒子から放出される陽電子の振る舞いを最高精度で観測する新たな検出器を開発した。ソフトウェアコーディネータとして、高効率・高精度な解析の実現にも取り組む。
ILC計画

田俊平助教
ILCの物理的意義を高めるため、電弱対称性の破れの謎に迫るヒッグス自己結合等の研究を進める。また、ILD測定器の物理研究能力を高めるための最適化にも取り組む。
Tabletop実験

難波俊雄助教
量子ビームや量子センサーを利用し、標準理論を超えた物理現象を探索する。小規模ながら高感度でユニークな実験により、暗黒物質の正体や真空の構造などを解明する。

稲田聡明特任助教
量子コンピュータに纏わる超伝導・光デバイスの開発を行なう。また量子センサーを用いて、人工ブラックホールや重力の量子性に関する研究およびアクシオンの探索を行なう。
その他の素粒子実験

神谷好郎助教/理学系研究科
低速中性子等を用いた重力の検証、未知の相互作用と新粒子探索、高強度レーザー場の下での非摂動論的非線形QEDの研究、次世代量子検出技術の開発などに取り組む。

小貫良行助教/理学系研究科
B中間子を用いた物質反物質対称性の破れ測定や未知の素粒子探索実験などで、標準理論を超えた現象の発見を目指す。将来実験で使用する半導体放射線検出器の開発にも取り組む。

井上慶純助教/理学系研究科
暗黒物質の正体が隠れたセクターのU(1)ゲージボソンとなる隠れた光子(hidden photon)を想定した検出実験や、SOIPIX検出器を利用した太陽アクシオン検出実験など携わる。
在籍者数
(単位:人)
研究室数 | 博士課程 | 修士課程 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
令和4年度 | 8 | 17 | 18 | 35 |
令和3年度 | 9 | 16 | 20 | 36 |
令和2年度 | 8 | 19 | 21 | 40 |
令和1年度 | 8 | 21 | 17 | 38 |
平成30年度 | 7 | 22 | 16 | 38 |
平成29年度 | 9 | 24 | 18 | 42 |
平成28年度 | 9 | 22 | 19 | 41 |
平成27年度 | 8 | 18 | 24 | 42 |
平成26年度 | 9 | 16 | 24 | 40 |
平成25年度 | 9 | 17 | 19 | 36 |
平成24年度 | 9 | 19 | 19 | 38 |
平成23年度 | 9 | 21 | 17 | 38 |
平成22年度 | 9 | 19 | 16 | 35 |
学位取得者数
(単位:人)
博士 | 修士 | 合計 | |
---|---|---|---|
令和4年度 | |||
令和3年度 | 2 | 13 | 15 |
令和2年度 | 7 | 7 | 14 |
令和1年度 | 5 | 8 | 13 |
平成30年度 | 2 | 8 | 10 |
平成29年度 | 6 | 10 | 16 |
平成28年度 | 6 | 10 | 16 |
平成27年度 | 1 | 13 | 14 |
平成26年度 | 3 | 10 | 13 |
平成25年度 | 5 | 7 | 12 |
平成24年度 | 8 | 11 | 19 |
平成23年度 | 3 | 6 | 9 |
平成22年度 | 5 | 10 | 15 |
※理学系研究科物理学専攻 浅井研究室、駒宮研究室(~平成29年度)も含む