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CERNの大型ハドロン衝突型加速器の第3期運転は予定通り開始され、
東京ではヒッグス粒子発見10周年の記者懇談会を開催

CERNコントロールセンターでの祝賀会
LHC Run3の開始を祝う、CERNコントロールセンター(CCC)の様子

7月5日午後4時47分(中央ヨーロッパ標準時)、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)上に設置された各検出器が世界初13.6TeVでの高エネルギー陽子陽子衝突事象を記録し始め、CERNコントロールセンターで拍手喝さいが沸き起こりました。

ATLAS検出器をはじめ、LHC加速器上に設置された各検出器はすべてのサブシステムの電源を入れ、世界初 13.6TeVでの高エネルギー陽子陽子衝突事象を記録し始め、新しい物理の季節がやってきました。これは、4月のLHCの再稼働以来、ビーム衝突を円滑に開始できるように24時間体制で準備に取り組んできたオペレーターによって達成された偉業です。
3年以上にわたるアップグレードとメンテナンス作業の後、LHCは現在、13.6TeVの記録的なエネルギーで4年近く稼働する予定であり、より高い精度での測定や新物理発見の可能性を実験グループにもたらします。衝突輝度や衝突エネルギーの向上、データ読み出しとイベント選択システム(トリガー)のアップグレード、新しい検出器システム、計算機資源など、これらすべての要素は、多様なLHC物理プログラムをさらに確実に拡張していくことを約束しています。

スーパー陽子シンクロトロン
陽子を供給するスーパー陽子シンクロトロン(SPS)が正常に動作していることを示すCERNコントロールセンターのモニター画面
CERN所長とLHCビーム運転責任者ら
LHC13.6TeV運転開始を拍手喝さいするCERN所長 Fabiola Gianotti氏(中央)、LHCビーム運転責任者兼CERNビーム運転責任者 Jorg Wenninger氏(左奥)他

新たな高エネルギーフロンティアにおける「最初の物理事象」を記録

LHC加速器のRun3開始により、ATLAS実験検出器内で陽子衝突が発生しました。記録破りな13.6TeVの高いビームエネルギーと強度により、ATLAS実験は現在の物理学研究の限界を押し広げることができます。

2022年7月5日にATLASで記録されたイベント事象
2022年7月5日にATLAS検出器で記録されたZボソンからμ+μ-への崩壊事象候補(左)とJ/ѱからμ+μ-への崩壊事象候補(右)

今日、「Stable Beams」が宣言されたことで、2022年4月に始まったLHCの試運転期間は終了しました。今日から1ヶ月以内にLHCは予定通りのビーム輝度に到達します。一方、ATLAS実験はすべての測定器システムのスイッチを「オン」にし、物理解析に使用するデータの記録を開始しました。LHCはこれから4年近く24時間体制で稼働し、これまでにないほどの陽子陽子衝突と、重イオン同士の衝突が起こります。
「ATLAS実験は、この新しいデータを“収穫”する準備ができています。」と、スポークスパーソンのAndreas Hoecker氏は述べています。我々は、この第3期実験で過去に蓄積したデータの3倍以上のデータ量を手にすることが約束されています。性能が向上した測定器を使って、我々は幅広い多様な物理プログラムを進めていきます。

LHC13.6TeV開始に喚起するATLASコントロールルームの研究者
ATLASコントロールルームで、LHC13.6TeV開始の成功を喜ぶATLASコラボレーションメンバー

東京で記者懇談会「ヒッグス粒子発見からの10年と、これからの10年」を開催

2012年7月4日のヒッグス粒子の発見から10年の節目を記念して、東京大学で記者懇談会を開催しました。懇談会ではヒッグス粒子の発見がもたらした「これまでの10年間にわたる研究成果」の総括と、今年始まったRun3実験から将来的な高輝度化(HL-LHC)実験までを見据えた「これからの10年間で期待される新しい発見」を中心テーマに、ATLAS日本共同代表者の2名が報道関係者にプレゼンテーションを行ないました。
「これまでの10年間にわたる研究成果」を総括した、高エネルギー加速器研究機構の花垣教授は、「物質を構成するクォーク・レプトンの質量がヒッグス機構によって動的に生成される描像を確立したことが主要な成果である。次は“素粒子の世代構造”にヒッグス機構が関与している可能性や、ヒッグス場そのものの性質を追求したい。」と強調しました。一方、「これからの10年間で期待される新しい発見」の展望を語った東京大学素粒子物理国際研究センターの石野教授は、「現在までに手に入れたデータは(高輝度)LHCプロジェクト全体のほんの5%でしかない。今後、現有の20倍に相当するデータを獲得し、ヒッグスポテンシャルの形の決定をはじめ、この宇宙の真空の安定性についての理解や超対称性粒子の発見の可能性など、多様な物理成果を得ていく。」というメッセージを発しました。
記者との質疑応答では、今後の高エネルギーフロンティア物理で得られる科学成果の展望、特にヒッグス粒子を介して標準理論を超える物理世界にどのようにアクセスしていくかの議論をはじめ、他の素粒子実験プログラムとLHC実験の関係性・相補性、プロジェクト成功に向けた日本の研究機関の寄与の具体的な内容について、やりとりが交わされました。

記者懇談会
ATLAS日本グループ共同代表者の高エネルギー加速器研究機構 花垣和則教授(写真左)と東京大学 石野雅也教授(写真右)

CERN発表関連

CERNウェブサイト(記事原文):
News Topic: At CERN The third run of the Large Hadron Collider has successfully started

ATLAS Experimentウェブサイト(記事原文):
Updates: Press Statement ATLAS Experiment records “first physics” at new high-energy frontier