Main Menu // トップ / 研究紹介 / メンバー / 研究室Q&A / リンク
Research Menu // 研究コンセプト / ILC / LHC / BES / UCN / LEP / BESS

Now in // トップ > 研究紹介 > LHC計画 > LHC実験の概要 > Extra dimensionの研究 > LHCでのブラックホール(BH)発生

LHCでのブラックホール(BH)発生

加速器実験における素粒子間の衝突によって引き起こされる基本相互作用は、電磁気力、強い力、弱い力の3つであり、これまでの実験において、重力の効果が観測された事実はありません。これは、重力が他の力に比べて著しく弱いということに起因しており、標準理論では、エネルギースケールが10^19GeV(=10^28電子ボルト)にならないと、重力は他の力と同程度にならないということになっています。重力の基本スケールのみが、現在の加速器実験のエネルギースケールおよび電弱相互作用の基本スケールから極端にかけ離れている問題は、階層問題とよばれ、現在の素粒子理論でははっきりと説明ができない、不可解な問題の1つとなっています。

これを解決する理論として、注目を集めているのがextra dimension の概念です。「我々の世界は、4次元より高次元の時空構造をもち、4次元の世界とは、その中に存在する膜(brane)のようなものだ」という、いわゆるbrane worldの発想においては、電磁相互作用や強い力、弱い力がbrane上に束縛される一方、重力のみに関しては、余剰次元への伝播を許されています。この場合、我々は、4次元以外の領域の観測は不可能であることから、4つの力のうち、重力の強さのみが小さく見えるという状況が生まれます。extra dimensions への重力の伝播の効果を考慮すると、重力の基本スケールは下がることになり、この効果が大きければ、階層問題解決の理屈が一気に見えることになります。

一般に、extra dimensionのスケールが大きいほど、この効果は大きくなるため、最近では、超弦理論で従来仮定されているプランクスケール(10^-33cm)より十分大きく広がったlarge extra dimensionの存在の可能性が広く議論されています。このモデルによれば、重力の基本スケールは、TeV(=10^12電子ボルト)のオーダーまで下がると考えられており、その結果、LHCにおいて、重力相互作用によるブラックホール(BH)の発生の可能性が指摘されるに至っているわけです。

LHCでのBHの発生は、陽子-陽子衝突において、陽子中のパートンが高次元時空で定義されるシュバルツシルト半径以下に近づき、かつ、その衝突エネルギーが重力の基本スケール(プランク質量)よりも大きいときに実現されます。BHの生成断面積[生成頻度]は、主に、プランク質量とパートン同士の衝突エネルギーに依存しており、もし、プランク質量が1TeV程度であれば、LHCにおいて、1年間に100万個から1000万個のBHが発生するという見積もりもあります。

なお、モデルによると、加速器で生成するBHは、サイズが小さく、また、生成後10^-26秒という、極めて短い時間で崩壊してしまうため、BHときいて、巨大な宇宙天体を思い浮かべた方には、少し違和感を与えるかもしれません。但し、このミニブラックホール生成崩壊事象の解析からでも、ブラックホールの性質の直接的検証は可能であり、この全くもって未知の領域への追求が、とてつもなく面白い研究となることは間違いないと断言できることでしょう。