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ATLAS実験におけるブラックホール(BH)生成事象の解析

large extra dimensionのモデルにおける、加速器でのmini BH大量発生の可能性の指摘を受け、我々は、ATLAS-Japan物理グループとの共同で、LHC実験のATLAS検出器によるBH事象の探索および解析に関する研究を行っており、現在までには、主に、事象選択に関する研究を進めてきています。

モデルによると、生成したBHは、10^-26秒という、極めて短い時間で崩壊しますが、この際、全ての種類の素粒子を、ほぼ同じ確率で放射することになっています。放射粒子のエネルギーの典型的な値は、数100GeV(=few×10^11電子ボルト)程度であるため、この崩壊現象では、通常のQCDで生じる事象に比べ、高エネルギーのレプトンやゲージボソンの出現確率が非常に大きくなります。したがって、我々は、BHの発生を発見し、その性質を研究するため、こうした特徴をとらえ、かつ、バックグラウンドとなる通常の事象を取り除くためのイベントセレクション(事象選択)について、様々な方法を考察し、最適化を進めています。

なお、BH発生のメカニズムは、重力のプランク質量Mpやextra dimensionの次元数nによって変ってくるため、我々は、様々な(Mp,n)の場合について、BH発生および崩壊のモンテカルロシミュレーションを行い、イベントセレクションの最適化を経て、シグナルイベントのsensitivityの調査を行ってきました。

図2は、(Mp,n)平面における、ATLAS検出器によるBH事象発見に要する積分ルミノシティについての等高線図です。積分ルミノシティとは、実験装置が収集したデータ量に比例したパラメータです。ATLASでの1日あたりの積分ルミノシティは、1pb^-1 程度、1年あたりでは、10fb^-1 と考えられています(なお、1fb^-1 = 1000 pb^-1 です。)。

図2 . ATLAS検出器によるBH事象の発見能力 : 図中の1pb^-1,10pb^-1等の数字は、発見に要する積分ルミノシティの値。