高エネルギー物理学を担う優秀な若手研究者の学位取得後の研究を奨励するために設けられたこの賞は、その研究者の優れた業績に対して授与するもので、今後さらにステップアップするための登竜門と言えます。
応募対象は、過去3年以内に学位を取得した応募者の学位論文とされており、選考委員会内で厳密な審議が重ねられた後に受賞者3名が確定します。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
山本特任助教は、大学院生時代に森研究室の一員としてMEG II実験に参加し、μ→eγ探索の物理ランで得られた高統計データを最大限に生かすため、背景ガンマ線の識別性能や液体キセノンガンマ線検出器の較正手法を改善しました。これらの成果により、世界最高感度での探索を支え、新物理探索の可能性を広げることに貢献しました。
解析と検出器の両面にわたる独創的な研究成果をまとめた博士論文が高く評価され、このたび第28回(2026年度)高エネルギー物理学奨励賞を受賞しました。
受賞論文
A search for μ+ → e+γ with the highest sensitivity beyond the MEG experiment
受賞理由
本論文はPSIのMEG II実験においてレプトンフレーバー保存を破る稀崩壊μ→eγを探索するもので、MEG II実験の最初の2年間(2021-2022)に取得したデータの解析によって前身のMEG実験の探索感度を2.4倍超える世界最高感度の探索を行い、崩壊分岐比に対して1.5×10-13(90% CL)という新たな上限値を与えている。すでに論文発表されていた2021年データ解析に対する統計的な発展だけではなく、背景事象となるガンマ線の識別性能の向上といった解析手法の改善、その鍵となる液体キセノンガンマ線検出器の較正手法の改善など、長期ランデータによる高統計をしっかりと高感度に結びつける仕事がなされており、各々で本人による貢献が顕著である。検出器運転から解析まで、丁寧でつながりを持って議論されており、実験全体を理解して取り組んでいることが伝わる迫力のある論文となっている。
以上から、本論文は高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断する。(選考委員会による講評)
感想と今後の抱負
このたび、本賞をいただき、大変光栄に思います。
本研究では、MEG II実験の前身であるMEG実験を2.4倍上回る世界最高感度で、μ+→e+γの探索を実現することができました。この成果は、MEG IIコラボレーションをはじめとする国内外の共同研究者の多大な努力と協力の上に成り立っています。この場を借りて、心より感謝申し上げます。
MEG II実験は継続的にデータ取得を行い、2026年9月に物理データ取得を完了しました。本研究で確立した解析手法が現在進行中の解析の基盤となり、蓄積した統計を最大限に活用することで、前人未到の10-14台の感度での探索につながるものと期待しています。
今後もレプトンフレーバー物理の研究をさらに深化させ、新物理の発見に向けて研究に邁進していきます。