毎年秋に開催されている日本物理学会では、大会における若手(正会員のうちの大学院生または学生会員)の優秀な発表を奨励し大会をより活性化するため、「学生優秀発表賞(素粒子実験領域)」が2020年度より設けられました。
本センターでは、各研究室所属の修士課程・博士課程の大学院生20名以上が毎回参加し、ATLAS実験・MEG実験・ILC実験・量子AI等での最新の研究成果をプレゼン資料に纏めて、素粒子実験領域の全研究者の前で発表しています。
このたび、大谷研究室修士課程1年の榊原澪氏は、スイス・ポールシェラー研究所(PSI)におけるMEG II実験で取得した実験データの解析結果を発表し、学生優秀発表賞を受賞しました。

対象発表
次世代μ+→e+γ崩壊探索実験のための光子ペアスペクトロメーターの開発 -ビームテストによるアクティブコンバーターの性能評価- 発表資料
受賞理由
ミューオンが光子と陽電子に崩壊する事象は標準理論では事実上禁止されており、現在に至るまで発見されていません。そのようなμ→eγ崩壊を探索する実験としてMEG II実験が現在スイス・ポールシェラー研究所で行なわれており、2026年度までデータ取得を継続する予定です。そしてその後、MEG IIの一桁上の探索感度をもってさらなるμ→eγ崩壊の探索および発見後の精密測定をするため、新しいコンセプトの検出器を用いた将来実験の計画が進んでいます。新実験におけるガンマ線検出器は従来のカロリメータ型検出器からアクティブコンバーター型ペアスペクトロメータに移行することを検討しており、今回の学会発表ではこの新しいガンマ線測定器の鍵となるコンバーターのプロトタイプについて、昨年度行なわれた電子ビームテストの結果を解析した最新成果を報告しました。
解析の結果、次世代実験に要求される時間分解能および光量を十分に満たすことが確かめられ、μ→eγ探索の将来実験に対する高い関心も相まって注目を集めました。
感想と今後の抱負
今回は大学院に進学後、初めての学会発表でしたが、学生やスタッフの皆さんからたくさんのコメントをいただいて改善を重ねた結果、聴衆に研究内容を十分に伝えることができました。また、本研究で解析したビームテストも多くの方々のお力添えによって行なわれたものであり、この場を借りて感謝を述べたい思います。
μ→eγ探索のための将来実験は検出器デザインにおいて検討の余地が多く残されており、現在も盛んに議論が行なわれています。今後も引き続きシミュレーションや要素技術の開発によって、将来実験の実現に向けた研究に取り組んでいきたいと思います。
関連リンク
日本物理学会学生優秀発表賞(関連サイト)