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居室: 東京大学理学部1号館西棟1004室
Contact: suehara@icepp.s.u-tokyo.ac.jp (@を半角に変えてください)
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本務: 東京大学 素粒子物理国際研究センター(ICEPP) 特任准教授
兼担: 東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻
(委員会等)
高エネルギー将来計画委員会 委員 (高エネルギー物理学研究者会議 附置委員会)
ILC-Japan 物理ワーキンググループ座長、エグゼクティブボードメンバー (高エネルギー物理学研究者会議 附置委員会)
ILC国際推進チーム ワーキンググループ3 (物理・測定器) Steering Boardメンバー
International Large Detector (ILCのための測定器コンセプト) Executive Boardメンバー、物理Co-convener
素粒子とは物質の最小の構成単位(それ以上分けられない)のことで、その性質は宇宙の成り立ちや存在に深く関わっています。 素粒子実験は、未解決の宇宙の謎(物質はなぜ作られたのか、暗黒物質は何なのか、宇宙を貫く基本原理は何か、など)の解明を目指し、素粒子の振る舞いを実験的に調べる学問で、 特に素粒子の高いエネルギーでの振る舞いを直接調べるため、巨大な装置で粒子を超高速に加速し衝突させるコライダー実験はこの分野の王道的実験です。
2012年にCERNのLHC実験で発見されたヒッグス粒子は、素粒子標準模型で最後に発見された素粒子であり、その振る舞いを詳細に調べることは標準模型を超えた新しい理論を発見する大きな手がかりとなります。 そのため、LHCおよびそのアップグレードであるHL-LHCを大きく上回る測定精度を持つと期待される電子・陽電子衝突型コライダーであるヒッグスファクトリーの実現は世界の次期素粒子実験の最大の課題であると言えます。 日本(または欧州)のILC計画、欧州のFCCee計画、中国のCEPC計画などいくつかの計画が世界で提案されており、現在その実現にしのぎを削っています。 どの計画も、分野の世界的な次期基幹計画として、これまでの常識を覆す多くの実験的成果が期待されます。特に国際協力により日本サイトでILCが実現した場合には、 世界から第一線の研究者が集まる一大拠点が日本にでき、長期にわたり日本が素粒子実験の主要推進拠点となることが期待できます。ILCの(日本での)実現は私の研究の一大目標です。
私は、このヒッグスファクトリーの物理・測定器研究に長年携わっており、現在は特に深層学習を活用したヒッグスファクトリーの物理測定性能向上に取り組んでいます。 ヒッグスファクトリーの測定器は、LHC等の現行実験の測定器に比べて非常に多くの測定器要素を持ち、その膨大な測定データからヒッグス粒子等の物理的意味のある事象を取り出す 事象再構成には非常に高い性能が要求されます。私は、特に荷電粒子の飛跡および後述のカロリメータの信号から衝突により発生した多数の粒子を求めるParticle Flow Algorithm および粒子の束であるジェットから元の粒子(クォーク・グルーオン)のフレーバーを求めるジェットフレーバー識別の深層学習による性能向上およびそれを用いた物理解析に取り組んでいます。 現在は特に自然言語処理の分野で開発され様々な応用が行われているTransformerや、グラフ構造を用いたGraph Neural Network(GNN)を用いてこれらの課題に取り組んでいます。 素粒子センターには量子・AIグループがあり、同様の深層学習をLHC(ATLAS)に応用する研究者と協力し、素粒子実験における日本の深層学習研究の最大の拠点の一つとして研究を推進しています。
ヒッグスファクトリーの最重要測定器要素の一つであるカロリメータ、特に電磁カロリメータの開発を国際共同で行っています。 私はシリコンセンサーを用いた電磁カロリメータの開発を2013年から行っており、フランス・スペイン等の研究者と共同で、センサーの開発、 読み出しIC(ASIC)の評価および品質検査、組み立て手法の検討および試作モジュールの製作、ビームを用いた試作モジュールの性能評価などを行ってきました。 このカロリメータは従来のものに比べて3次元に非常に細かく分割されており、大量のセンサー要素(ピクセル)からの微弱な信号を読み出しASICで増幅・デジタイズし、 デジタルデータとしてデータ収集系に送ります。これらのハードウェア、ソフトウェアの開発には高度な設計が要求され、海外の研究所のエンジニアや国内の産業界と 協力してこれらの課題を解決してきました。 モジュールの性能評価はDESY(ドイツ)・CERN(スイス)で主に行われており、学生と一緒に現地でのビームテスト遂行およびその後のデータ解析も行っています。 近年では、センサーにピコ秒時間測定機能を付加する研究を行っており、ゲインを持つシリコンセンサーであるLGAD(Low Gain Avalanche Detector)の性能評価 およびカロリメータへの導入可能性についての研究を行っています。
なお、素粒子センターではシンチレータと光検出器を用いたカロリメータの開発も行っており、主に中国との共同研究を行っています。 またシンチレータとチェレンコフ検出器を組み合わせた新しいカロリメータの開発にも取り組んでいます。 私はこちらの研究にも関わっており、所属学生は希望に応じてこちらの研究にも携わることが可能です。
上記のカロリメータのスピンオフプロジェクトとして、KEK(高エネルギー加速器研究機構、つくば市)におけるビームダンプ実験(EBES実験)を進めています。 この実験は、コライダー実験では検出が難しい弱結合の低質量(GeV以下)未知粒子を探索するもので、KEKの線形加速器(SuperKEKB加速器にビームを入射する 加速器)のビームダンプ後方に検出器を設置し、ビームダンプに衝突した電子から稀に発生する(かもしれない)未知粒子がビームダンプを貫通して後方で 再度普通の粒子(2光子)に変換したものを検出器で検出します。未知粒子でない標準模型の粒子は基本的にビームダンプで止めることで、ダンプ後方では 未知粒子由来の事象だけが観測できると期待できます。実際にはビームラインやビームダンプから様々な経路で到達する背景事象が存在し、それを どうやって排除するかが最大の課題です。上記の細かく分割されたカロリメータを用いることで、多数の粒子の方向、種類を特定し、信号事象を 選択することができ、現在の(分割のない)検出器に比べて非常に検出効率を向上させることができます。
私はこのEBES実験の主要メンバーの一人として、特に微細分割カロリメータ導入を主導するほか、実験全体の設計やパイロット試験の遂行(装置設置、運転、読み出し)全般に 関わっています。この実験はKEKの高輝度ビームとこのカロリメータにより、数年の運転期間で既存実験を上回る感度を達成し、他の実験で探索できない未知粒子を検出できると期待できます。
私は、これ以外にJ-PARC(茨城県東海村)で行う予定のmuon g-2/EDM探索実験にも関わっており、現在は主に深層学習等を用いた測定性能向上の検討を行っています。 また、素粒子センターでは、現行の世界最大のコライダー実験であるLHCのATLAS実験や、ミューオンの稀崩壊を探索するMEG実験、量子計算や量子センサーの開発、新しいアイデアによる小規模実験などを行っています。 所属学生が特に希望する場合は、これらの実験に参加することも可能です。ご相談ください。
私の研究に興味のある方、研究室に入りたい方など、お気軽に上記連絡先までお問い合わせください。