Quantum Software量子ソフトウェア
量子コンピューティングが
導く未来の素粒子物理学

概要
量子コンピュータには、古典コンピュータよりもはるかに高速に解ける問題があることが知られています。古典コンピュータが情報を0か1の「ビット」で処理するのに対し、量子コンピュータでは0と1だけでなく、0でも1でもない状態を表現できる「量子ビット」を使って計算します。量子ビットが50個あれば、原理的には1,000兆通りもの状態を同時に表現することが可能です。この表現能力の高さはミクロな実体である量子の特性を利用したものです。本センターが取り組む素粒子実験はまさにミクロな粒子としての素粒子を扱っており、その素粒子の複雑な振る舞いを量子コンピュータを使うことで上手く計算できるようになるのではないかと考えています。現在では、数百個の量子ビットを持つ量子コンピュータが実現しており、通常の(古典)計算機では扱うことが難しい領域に突入しています。この新しい計算パラダイムの到来に備えた準備が急務です。
量子ソフトウェアグループでは、主に3つのテーマで研究を進めています。1つ目は「量子アルゴリズムの研究」です。特に、量子加速を実現する量子理論・計算アーキテクチャと、その応用としての量子AI(人工知能)に重点を置いた研究を進めています。中長期的な量子コンピュータへの拡張を見据え、最先端の理論手法を開拓し、基礎物理での計算可能領域を広げる取り組みを行っています。2030年開始予定の高輝度LHC実験、さらに将来の大型加速器実験ではデータ量が飛躍的に増えるため、量子コンピュータを活用した解析手法が期待されています。
2つ目は「素粒子反応の量子シミュレーション研究」です。加速器の中ではさまざまな素粒子が生成され、それらが別の素粒子へと変換・崩壊する過程を起こします。こうした反応過程には、量子コンピュータによって古典計算よりも非常に効率的にシミュレートできる部分が含まれています。量子コンピュータを使ってその基礎反応を計算する手法を研究し、より複雑な多次元反応へと拡張する取り組みを進めています。
3つ目は「量子コンピュータのハードウェア研究」です。開発した量子AIアルゴリズムや量子シミュレーション を量子コンピュータで動かすには、ハードウェアへの効率の良い実装と制御が欠かせません。専用超伝導量子ビットの開発やその物理実験への応用、最低3準位を利用した量子トリット制御の実装など、量子ハードウェアグループとの連携を活かした研究開発も進めています。
一連の研究は、LHC-ATLAS実験を基点に、米国のLBNLとFermilab、シカゴ大学、スイスのCERNの4つが大きな軸として、国際共同研究の形で進めています。また、本学が2019年に締結したIBMとのパートナーシップに基づき、知識集約型社会へのパラダイムシフトを目指す「東京大学量子イニシアティブ構想」にも関わっています。基礎研究から技術実証、オープンイノベーション、人材育成に至るまで、産学官の連携と国際共同研究を主導していくことで、社会課題の解決と新たなサイエンスの創出を進めています。