MEG実験

電子の仲間「μ粒子」が、新理論の手掛かりを握る

MEG実験とは、電子の仲間である「μ粒子」が、γ線を放出しながら電子に崩壊する「μ→eγ崩壊」という事象を観測するための実験プロジェクトです。「μ粒子」とは、電子と性質がほぼ同じで電子の200倍の質量を持つ「荷電レプトン」に属する素粒子のことです。

「μ→eγ崩壊」は、「標準理論」では起こりえないと考えられていますが、宇宙や素粒子に働く力をより包括的に説明する「超対称大統一理論」では、数千億~十兆回に1回程度という非常に小さい確率で起こることが予言されています。その観測に成功すれば超対称大統一理論の実証につながりますし、それが観測されなければ超対称大統一理論の見直しを迫ることになります。いずれにしても、素粒子物理学の新たな理論を構築する足がかりとなる重要な実験と位置づけられています。

MEG実験は、本センターの研究者が中心になって設計・提案した国際共同研究プロジェクトです。実験の重要性を認識したイタリア、スイス、アメリカ、ロシアの研究者たちが加わり、約60名体制でスイスのPSI(ポールシェラー研究所)を拠点に、2008年から研究が始まっています。

きわめて稀にしか起こりえない「μ→eγ崩壊」を観測するには、最初に大量のμ粒子が必要です。それを可能にするのが、世界で唯一、1秒間に約1億個ものμ粒子をつくり出すことのできるPSIの「陽子サイクロトロン」です。日本の研究チームは、「陽電子」(プラスの電荷を持つ電子)の性質を測定する「COBRA陽電子スペクトロメータ」や、γ線を検出する「液体キセノンガンマ線検出器」をはじめ、測定装置の主要部分を発案して独自開発するとともに、研究グループ全体を主導する役割を担っています。

2008年に始まった実験の結果、「μ→eγ崩壊」は約2.4兆回に1回の頻度では起こらないことが明らかになりました。これは、超対称大統一理論をはじめ、標準理論を超える新たな理論にきわめて厳しい制限で、さらに高い精度で新物理の妥当性を検証することが急務となっています。装置の観測感度をもう一桁高め、数十兆回に1回の頻度で「μ→eγ崩壊」が起こるかどうかを確かめるMEG II実験を、2018年から徐々に立ち上げていきます。

MEG実験の成果によって、素粒子物理学の新分野が切り拓かれました。μ粒子を使って素粒子物理学の新たな理論を検証する「荷電レプトンフレーバー物理」と呼ばれる分野です。現在、3つの大規模な実験が日・欧・米で進んでいます(Mu2e実験、Mu3e実験、COMET実験)。これらの実験メンバーが集まる国際研究会を開催するなど、グローバルな枠組みで超対称性理論の検証に挑んでいます。

素粒子の世代に潜む謎

1970年代初頭に発見されていたクォークは3種類しかなく、その時代に、小林誠・益川敏英先生の二人は、3つの「世代(フレーバー)」に分類される6種類のクォークがあることを予言しました。その後すべてのクォークが発見され、さらにKEKの実験などで、クォーク世代間の転換(混交)が「小林・益川理論」の予言どおり起こることが確認され、2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。
続いて、ニュートリノでも世代混交が起こることが突き止められ、これは本学研究者が大きな功績をあげています。本センターを創設した小柴昌俊先生は、カミオカンデの実験で1987年に超新星爆発によるニュートリノを世界で初めて捉え(2002年ノーベル物理学賞)、さらに観測性能を高めたスーパーカミオカンデの実験で、本学の梶田隆章先生が1998年にニュートリノ振動の確かな証拠を掴みました(2015年ノーベル物理学賞)。
MEG実験は、荷電レプトンで世代混交が起こるかを探索します。「超対称大統一理論」ではμ粒子と電子の間の転換が予想され、成果は世界の研究者から注目されています。

図版 素粒子の世代に潜む謎
クォークとニュートリノでは、世代混交(フレーバー転換)が起こることが確認されている。MEG実験では、荷電レプトンでも稀に(十兆回に一回程度)世代混交が起こる(荷電レプトンフレーバー保存の破れ)とする「超対称大統一理論」の検証を目指している。