ILC計画

素粒子の振る舞いをより細やかにとらえる

ILC(国際リニアコライダー)は、全長約20kmにおよぶ直線状加速器で、電子と陽電子(プラスの電荷を持つ電子)を加速・衝突させて高エネルギー状態をつくり出し、素粒子の性質や物理法則を探求します。ILC計画は素粒子物理学の次世代基幹プロジェクトで、2030年ごろの稼働を目指し、世界中の研究者が準備を進めています。

2017年にICFA(国際将来加速器委員会)が発表した最新の計画では、ILCの電子・陽電子の衝突時のエネルギーは250GeVです。将来的には、加速技術の発展によりさらなるエネルギー拡張も期待されます。CERNのLHCが第2期実験で実現している13TeVと比べるとやや見劣りしますが、ILCにはLHCと異なる大きな特徴があります。

それは、LHCが複合粒子(ハドロン)である陽子どうしの衝突であるのに対し、ILCは電子と陽電子という単体の素粒子どうしの衝突であるということです。複合粒子と単体の粒子はそれぞれ大福餅と小豆にたとえられ、大福餅どうしを衝突させると餡が飛び散り、衝突の際に何が起きているかを見極めづらくなりますが、小豆どうしの衝突ならば、衝突の様子をクリアにとらえることができます。そのためILCは、素粒子の性質を細かく調べるのに適していて、ヒッグス粒子の詳細研究に始まり、質量の起源の解明や超対称性粒子の探索、力の大統一の検証、暗黒物質(ダークマター)の正体解明など、素粒子物理の次の一幕を開く発見が期待されています。

ILC計画は、長年にわたる国際共同研究を経て、2013年6月に技術設計書(TDR)が完成しました。計画推進組織の要職は、本学・本センターの研究者が担っています。世界のリニアコライダー研究活動を統括するリニアコライダー・コラボレーション(LCC)副ディレクターを村山斉氏(本学カブリIPMU機構長)が、計画全体に影響力のあるICFAの日本代表を、本センターの森俊則教授が務めています。

計画実現に向けた研究開発も本格化し、最先端技術とまったく新しいコンセプトにもとづいて加速器や超高精細測定器の開発が進められています。また、本センターの大谷航准教授はカロリメータ開発グループのスピーカー・ビューローの一員に選ばれ、研究者の国際的な成果発表に寄与しています。ILC実現に向けた動きでは、実験参加各国間の調整も強化され、情報交換が密に行われています。

建設候補地には、日本の北上山地が有力候補に挙がっています。日本でILC建設が決まれば、世界の人材と企業が集結する一大グローバル科学都市が日本に誕生します。世界が注目する次世代基幹プロジェクトを、日本はもとより世界中の知恵と技術を結集して最高なものにするとともに、本センターの研究者や学生たちと力を合わせ、日本誘致を目指しています。

加速器の形の違いは何を意味するのか?

ILCの完成イメージ(遠景図)
ILCの完成イメージ(遠景図)。黄色い管状のものは「クライオモジュール」と呼ぶ真空容器で、超伝導加速空洞や超伝導電磁石、液体ヘリウムを収めている。©Rey.Hori

加速器は、「円形」か「線形」か、「ハドロン型」か「レプトン型」かで大きく分けることができます。陽子どうしを衝突させるLHCは「円形」で「ハドロン型」、電子と陽電子を衝突させるILCは「線形」で「レプトン型」の加速器です。「ハドロン」とは、複数の「クォーク」が「グルーオン」(強い力を生み出す素粒子)によって結び付けられている複合粒子のことです。
加速器は、「線形」から「円形」へと発展し、大型・高エネルギー化してきましたが、円形加速器にはひとつの制約がありました。電子や陽電子は質量が軽く、曲がる際に放射光を出してエネルギーを失ってしまうのです。そのため、大型化した「円形」加速器の主流は「ハドロン型」でした。
ただし、「ハドロン型」は、本来調べたい事象のほかにさまざまな現象が同時に起こるため、素粒子の細かい性質を調べるには必ずしも適していません。ILCのように、「線形」の「レプトン型」の加速器で、TeV(テラ電子ボルト)単位の高い衝突エネルギーを実現するのは、素粒子物理の研究者たちの長年の夢なのです。

LHCとILCの加速器の性質の違い
LHCとILCの加速器の性質の違い。ILCは、単体の素粒子(電子と陽電子)を衝突させるため、素粒子の詳細な性質を調べるのに適している。