ATLAS実験

微細な素粒子をとらえる高精細な眼。

ATLASとは、CERN(欧州合同原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)で行なわれている実験プロジェクトの名称であると同時に、素粒子を探索する検出器の名称です。検出器としてのATLASは、全長44m・直径22m・重さ7,000t、1億1,000万チャンネルのセンサーが組み込まれた巨大な精密機器で、ヒッグス粒子をとらえた2台の検出器のひとつです。

LHCは2009年11月に運転を開始し、2010年3月から、7TeV(テラ電子ボルト)という未曾有の高エネルギーで本格的な実験が始まりました。2012年4月にはエネルギーを8TeVに増強し、同年7月4日のヒッグス粒子発見につながりました。

ATLAS実験は、世界38ヶ国から180の大学・研究機関が参加する国際共同研究プロジェクトです。約1,000人の大学院生を含む約3,000人の研究者が携わっており、ヒッグス粒子の発見とその性質の精密測定、素粒子の「標準理論」を超える新たな物理の探索を目指して研究が進められています。日本の17の大学・研究機関からも、研究者・学生あわせて約160名が参加し、「ATLAS日本グループ」として海外の一流の研究者たちと肩を並べ、素粒子物理の最先端の研究を進めています。そのうちおよそ30名が東京大学の研究者・学生で、本センターより長期にわたり派遣しています。

「ATLAS日本グループ」は1994年4月に発足して以来、国際共同研究の中心的な役割を担っています。ATLAS検出器の立案設計に関わってきたほか、日本企業の協力のもと、超伝導ソレノイド、シリコン飛跡検出器、ミューオン(ミュー粒子)検出器などを建設してきました。また、2009年からの本格的な衝突実験データ取得に合わせて、本センターに「地域解析センターシステム」を構築し、物理解析を推進してきました。ヒッグス粒子の発見では、日本の物理解析チームの貢献が世界的に認められています。

2013年2月で第1期実験を終えたLHCは、14TeVという前人未踏の高エネルギー実験を目指して改修を行ない、2015年6月より13TeVの第2期実験が始まりました。ATLAS実験も、検出器のアップグレードで精度をさらに高め、さまざまな粒子の種類や運動量を測定しています。第2期実験では、超対称性粒子の探索を最大のテーマに、暗黒物質(ダークマター)の候補となる素粒子など、宇宙誕生の謎を探る新たな発見が期待されています。

加速器の衝突エネルギーを未踏の領域まで高めて新たな素粒子を探索することを「エネルギーフロンティア」と呼びます。LHCでの実験は、まさにその最前線です。第2期実験が、新たな物理学の地平を切り拓くことになるのは間違いありません。

微細な素粒子を見るのに欠かせない巨大な加速器とは?

CERNのLHCは、全周が山手線一周とほぼ等しい27kmと非常に巨大な「加速器」です。
「加速器」とは、粒子を加速させて運動エネルギーを高める装置のことです。高いエネルギー下で、素粒子はさまざまな振る舞いを見せます。微細な素粒子を見るために巨大な設備が必要になるのは、「小さなものを見ようとすればするほど、より高いエネルギーが必要になるから」です。素粒子物理学の歩みは、加速器開発の技術の進展なくして考えられず、1930年代ごろから、物質の根源の探求に加速器が使われるようになりました。LHCでは、複数の素粒子からなる陽子を、時計回りと反時計回りに加速して正面衝突させ、世界最高の衝突エネルギーを実現しています。
現代の素粒子物理学や宇宙論では、加速器でつくり出される高エネルギー状態は、宇宙誕生直後の状態にきわめて似ていると考えられています。LHCが生み出す世界最高エネルギーは、宇宙誕生直後の約1兆分の1秒の世界を、ほんの一瞬ではあるものの再現できるとされています。

地下100mのトンネルに敷設されたLHC
地下100mのトンネルに敷設されたLHC。約1,700台の超伝導電磁石がつくる強力な磁場で陽子ビームを曲げ、髪の毛の1/10ほどの太さに絞り込んで衝突させる。LHCの建設には日本企業の技術面での貢献も大きい。©CERN
LHCの全景イメージ図
LHCの全景イメージ図。全長27kmのLHCに、4つの巨大な検出器ATLAS、CMS、ALICE、LHCbが設置され、衝突によって生み出された粒子をとらえる。©CERN
ATLAS検出器の構成図
ATLAS検出器の構成図。LHCの陽子・陽子衝突点に置かれていて、衝突点から出てきたさまざまな粒子の種類や運動量を高い精度で測定する。©CERN