中国高能研究所(IHEP)のBES実験グループとの共同で、2007年に 開始するBES-III実験のための飛行時間測定器(TOF)の開発を 行っています。TOFは、プラスチックシンチレータと光電子増倍管 (PMT)を組み合わせた測定器であり、本研究室では、主に、 光電子増倍管の設計等で中心的な役割を果してきました。
(1) 光電子増倍管の使用増幅率(ゲイン)の決定
まず、BES-III検出器のような放射線の強い環境下で光電子増倍管を 使用する際には、光電子増倍管の寿命の観点により、使用ゲインの 設定値を注意深く検討する必要があります。というのは、光電子増 倍管の寿命は、光電子増倍管内を流れるアノード電流の積分量に よって決まるため、信号レートの高い状況下においては、光電子 増倍管の増幅率を下げることで、アノード電流を低く抑えることが 必要になります。なお、このアノード電流は、主に、加速管内に おけるビームと残留ガスとの相互作用によって発生したバック グラウンド粒子によって引き起こされます。そこで、本研究室では、 加速管内のビームシミュレーションおよびBES-IIIの検出器シミュ レーションを基に、アノード電流の評価を行い、電流量を十分小さく するような光電子増倍管の増幅率の検討を進めました。
図1にシミュレーション結果を示します。BELLE実験や浜松ホトニクス社の 試験から、数年から10年のスケールで光電子増倍管を使用し続けるために は、アノード電流を1μAよりも小さなオーダーにすべきとの結果が 得られていたため、BES-IIIでは、上記のシミュレーション結果より、 十分小さいアノード電流を達成する設計として、使用増幅率を 5e05と最終決定するに至りました。
(2) 光電子増倍管の性能評価試験
さらに本研究室では、浜松ホトニクス社でBES-III TOF用に生産された 約550本の光電子増倍管(PMT)の性能評価試験を、高エネルギー加速器研究 機構(KEK)にて行いました。BES-IIIでは、TOFを磁場1テスラのソレノイド 磁石の内側に設置するため、使用する光電子増倍管については、高磁場に おいても十分な増幅率と高い時間分解能を維持することが要求されます。 そこで私達は、KEKの陽子シンクロトロン(KEK-PS)の東カウンターホール にある牛若電磁石を用いることで、磁場内における各PMTの電流増倍率や 時間分解能等の特性を試験しました。測定は、生産された全PMTについて 行い、要求性能を満たしていることを確認したうえで、実際にBES-IIIにて 使用する448本のPMTの選別を進めました。