量子色力学(QCD)によると、クオークやグルーオンを束縛する強い相互作用は、カラーと呼ばれる自由度をもち、物理的に存在する粒子はクオークが束縛された、カラーを持たない状態になっていることが分かっている。よって現在はカラーを持たない最も単純な系として、クオーク・反クオーク束縛状態であるメソンと、3つのクオークの束縛状態のバリオンの存在が確認されている。しかし、このほかにカラーを持たない新たな状態として、グルーオン2つの束縛状態であるglueballや、クオーク2つとグルーオンの束縛状態であるhybrid particleの存在を予想することができ、QCDはその存在を予言するが、未だにその存在は確認されていない。
これまでに提唱されたのは、e+e-→J/ψ+ηc,χc,ηc(2S)の異常に大きい崩壊断面積がBelle実験で観測されたことに対する(スカラー)glueballの存在であった。これによると、摂動論による量子色力学から、
γ*→(ccbar)(ccbar)とγ*→(ccbar)(gg)という二つの崩壊過程が同じオーダーの確率で起こるということが示された。ここで、γ*は仮想光子、cおよびcbarはチャームクオークと反チャームクオーク、gはグルーオンである。これから二つのグルーオンの束縛状態glueballの実在が示唆されたのである(Brodsky
et al)。
この結果の応用から、J/ψの崩壊について、J/ψ→(ssbar)(ssbar)とJ/ψ→(ssbar)(gg)の比較を考えることが出来る。ここでs、sbarはストレンジ、および反ストレンジクオークである。よって、J/ψ→φf0(980),φf0(1370),
φf0(1500)は、J/ψ→φGの候補として考えられる。ここでGはglueballである。この場合においてもJ/ψが3つのグルーオンを放出して(ssbar)(gg)になる崩壊過程のもっとも低次のオーダーの崩壊過程を考えることにより(ssbar)(ssbar)と(ssbar)(gg)は同じオーダーの確率で崩壊することが示される。よって、この解析は新たな粒子状態の発見につながる可能性がある。
現在、解析は進行中であり、f0(980)の質量のピークが得られている。これにより、J/ψ→φf0(980)の
branching fractionが測定でき、mG〜1GeVのglueballの存在可能性について解析できる。ここでmGはglueballの質量である。