これまでに発見されたCPの破れは、K0-K0やB0-B0といった、mixingによって起こる、いわば間接的なCPの破れであった。このような起源とは異なる、崩壊過程の崩壊振幅を起源とする、直接的なCPの破れを探索することは、物理の研究テーマとして興味ある一分野である。
このようなCPの破れの解析をするためには、Λ粒子のスピンを測定しなければならないが、実験においてはそのようなスピンの解析はなされていない。我々は間接的にΛ粒子のスピン解析をするために、Λ粒子がΛ→p+πに崩壊するときに放出される陽子の方向が、Λ粒子のスピンの方向に強く依存することを用いて、Λ粒子と陽子の運動量から作られるCP変換に対して符号を変える測定可能な量(observable)を観測することによって解析を行った。CPが破れている場合、observableは0から外れる。
我々はこの解析のために中国の高能研究所(IHEP)において行われたBESU測定器を用いたJ/ψの崩壊過程
J/ψ→ΛΛ
の崩壊過程を用いて、その解析を行った。またこの崩壊過程の崩壊分岐比も求めた。
崩壊分岐比は1.34±0.02±0.03×10^-4 という値を得た。これは統計誤差が2(%)であり、現在得られている値(1.30±0.12×10^-4)より精度のよい結果である。CPの破れの観測においては、現在、0から2.5σずれた値が得られている。これはやや大きなずれであり、CPの破れの兆候が現れているようにも思われる。これから、IHEPにわたってBES実験のJ/ψの全データ(5.8±10^7)を用いて更に詳しい解析をすることを計画している。