将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために設けられたこの賞は、40才未満の若手による学位取得後の業績で、対象者の寄与が本質的であり、過去3年以内脚注に学術雑誌に掲載された論文を審査対象としています。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
齋藤助教は、2014年4月に日本学術振興会特別研究員(PD)(東京大学・浅井研究室受入)に採用されて以来、LHC-ATLAS実験で10年以上のキャリアを積み、超対称性や暗黒物質など未知の素粒子や新現象の探索と、最先端のトリガー・データ収集システムの開発に取り組んできました。また、TDAQ L0 Muon TGC Sector Logic Coordinatorなど幾つもの要職に就き、トリガーシステム全体を統括する立場から国際共同研究を牽引し、ATLAS実験全体への貢献を果たしています。こうした業績が高く評価され、ATLAS Outstanding Achievement Awardを2018年と2025年の2度受賞。さらに今年は、「日本物理学会若手奨励賞」を受賞しました。
受賞論文
The ATLAS trigger system for LHC Run 3 and trigger performance in 2022, JINST 19 (2024) P06029
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-0221/19/06/P06029
受賞に繋がった研究内容
LHC-ATLAS実験では、陽子衝突の中から物理的に重要な事象をリアルタイムで選び出す「トリガーシステム」が、データ収集を支える重要な役割を担っています。本研究では、2022年から始まったLHC Run 3に向けてアップグレードしたATLASトリガーシステムを構築し、高い衝突頻度と多数の同時衝突が生じる環境においても、必要な事象を高い効率で選択しながら、安定したデータ収集を実現しました。
私は特に、トリガーシステムの中でも初段ミューオントリガーのアップグレードに携わり、ハードウェア設置やトリガーアルゴリズムの開発、システム統合を主導しました。また、実験開始時のコミッショニングや初期運転にも取り組み、Run 3開始初日から安定した物理データ取得を支えるトリガーの運用に貢献しました。さらに、Run 3の運転中には新型内層ミューオン検出器をトリガーシステムへ統合し、ミューオン選択効率を維持しながらトリガーレートを低減することで、トリガー性能のさらなる向上にも貢献しました。
これらの成果は、共同研究に参加する多くの研究者との協力によって実現したものです。開発、統合、運転、性能評価に携わったすべての共同研究者の方に深く感謝します。
感想と今後の抱負
今回の受賞を励みに、今後も最先端の粒子計測技術の開発と、それを用いた未知の物理現象の探索に取り組んでいきたいと考えています。特に、LHCの高輝度化に向けて、より大量の情報をリアルタイムに処理し、重要な事象を確実に捉えるための新しいトリガーシステムの開発を進めていきます。
また、加速器実験で培ったリアルタイム計測や大規模データ処理の技術を、素粒子物理学にとどまらず、異なる分野にも展開していきたいと考えています。多くの研究者との共同研究を通じて新しい計測技術を生み出し、これまで捉えることのできなかった現象の発見につなげることを目指します。