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超伝導マイクロ波共振器で単一磁束量子の侵入を検出
―個々のアブリコソフ渦糸の侵入をマイクロ波で捉える新手法―

東京大学素粒子物理国際研究センター
東京科学大学

発表のポイント

  • 超伝導マイクロ波共振器の一部を1μm程度まで細くすることで、個々のアブリコソフ渦糸(磁束量子)が侵入する際の変化を、共振周波数の離散的な「段差」として直接検出しました。
  • ダイヤモンド中の窒素・空孔(NV)センターを用いた磁気イメージングにより、狭窄部への離散的な渦糸侵入を直接観測し、マイクロ波で観測された段差が個々の渦糸侵入に由来することを独立に確認しました。
  • 一般的なマイクロ波伝送測定で個々の渦糸侵入イベントを検出できるため、単一渦糸ダイナミクスの研究や、超伝導量子ビット・共振器における渦糸起因損失の診断・低減、将来の渦糸状態の制御・情報利用につながることが期待されます。

概要

東京大学素粒子物理国際研究センターのKirill Shulga特任研究員、稲田聡明助教、同大学大学院理学系研究科物理学専攻の西村俊亮博士課程学生(研究当時)、長谷川亮太修士課程学生、佐々木健人助教、小林研介教授、コネチカット大学物理学科のPavel A. Volkov Assistant Professor、アリゾナ大学物理学科の平野美愛博士課程学生、東京科学大学工学院電気電子系博士課程学生(研究当時)現 物質・材料研究機構の辻赳行ICYSリサーチフェロー、東京科学大学工学院電気電子系の岩﨑孝之教授、波多野睦子工学院特命教授の研究グループは、超伝導コプレーナ型マイクロ波共振器(注1)に侵入する個々のアブリコソフ渦糸(注2)を、マイクロ波応答の変化として検出することに成功しました。研究グループは、共振器の接地端付近に細いネック状の狭窄部を設け、そこでマイクロ波電流密度が高くなるようにしました。外部磁場をゆっくり増加させながら共振周波数を測定すると、滑らかな磁場依存性に重なって、鋭い階段状の周波数低下が繰り返し現れました。
この段差は狭窄部が細いほど顕著で、各イベントに伴って共振器のQ値(注3)も低下しました。さらに、ダイヤモンド中のNVセンター(注4)を利用した量子ダイヤモンド顕微鏡(QDM)による磁場イメージングを行い、狭窄部近傍へ渦糸が離散的に侵入する様子を直接観測しました。これらの結果から、マイクロ波で観測された段差が個々のアブリコソフ渦糸の侵入・ピン止めに由来することが確認されました。
本研究成果は、2026年9月10日に科学雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載され、Editors’Suggestionに選出されました。

実験に用いた超伝導マイクロ波共振器
図1:実験に用いた超伝導マイクロ波共振器
(a)共通フィードラインに結合した4つの1/4波長共振器。(b)共振器の接地端に設けたテーパー部と細い狭窄部(ネック)の拡大像。右上は狭窄部近傍のさらに拡大した像。ネックで電流密度を高めることで、渦糸侵入に対する感度を向上させています。

発表内容

研究背景
II型超伝導体(注5)に磁場を加えると、磁束は連続的に内部へ入るのではなく、磁束量子(注6)を1個ずつ担うアブリコソフ渦糸として侵入します。渦糸は超伝導体の中に生じる基本的な磁気構造であり、その運動やピン止めは超伝導の基礎物性を理解するうえで重要です。また、超伝導量子ビットやマイクロ波共振器では、意図せず侵入した渦糸が損失を増やし、デバイス性能を低下させる場合があります。
これまで、渦糸集団がマイクロ波回路へ及ぼす影響は広く研究されてきました。一方、磁束量子1個の侵入によるインピーダンス変化は非常に小さく、電気的な方法で個々の渦糸侵入をリアルタイムに検出することは容易ではありません。単一渦糸は磁気イメージング技術によって可視化できますが、一般に専用の装置が必要で、広い回路を高速・多重に読み出す用途には適用しにくいという課題がありました。

研究内容
研究グループは、高抵抗シリコン基板上にニオブ(Nb)薄膜を形成し、4つの1/4波長コプレーナ共振器を作製しました。各共振器の接地端には幅1~10μmの狭窄部を設けました(図1)。狭窄部ではマイクロ波電流が集中するため、局所的な渦糸侵入が共振器全体の周波数や損失に反映されやすくなります。
希釈冷凍機を用いて約20mKまで冷却し、面に垂直な磁場をゆっくり掃引しながらマイクロ波透過特性を連続測定しました。その結果、磁場増加に伴う滑らかな共振周波数低下の上に、約0.2~0.5MHzの鋭い下向き段差が現れました(図2)。各段差にはQ値の低下も伴い、磁場を往復させると履歴(ヒステリシス)も観測されました。狭窄部が細いほど段差は大きく頻繁になり、より幅の広い狭窄部では明瞭な段差が見えなくなりました。理論モデルからも、狭窄部が細いほど個々の渦糸の影響がマイクロ波応答に強く現れると予想され、実験で観測された幅依存性を定性的に説明できます。

外部磁場を増加させたときのマイクロ波応答
図2:外部磁場を増加させたときのマイクロ波応答
左のカラーマップでは、共振周波数が磁場に対して階段状に低下しており、個々の渦糸侵入イベントに対応します。右は破線で示した3つの磁場での透過スペクトルで、渦糸の侵入に伴って負荷Q値が低下します(ネック幅1μm、温度20mK)。
マイクロ波で観測された離散的な段差が局所的な渦糸侵入に由来することを独立に検証するため、NVセンターを用いた量子ダイヤモンド顕微鏡(QDM)で磁場分布を直接観察しました。まず磁気イメージング手法を確認するため、幅2μmのネックを持つデバイスを113μTの磁場中で冷却しました。周辺のNb領域には個々の渦糸が観察される一方、細いネックには渦糸が見られませんでした(図3)。これは細い超伝導ストリップにおける渦糸排出効果によるものと考えられます。
量子ダイヤモンド顕微鏡(QDM)で観察したネック周辺の磁場分布
図3:量子ダイヤモンド顕微鏡(QDM)で観察したネック周辺の磁場分布
113μTの磁場中で冷却した後の広視野像(上)と、破線領域の拡大像(下)。周辺のNb領域には渦糸が見える一方、細いネック領域では渦糸が排除されています(ネック幅2μm)。
次に、ほぼゼロ磁場で冷却してネックを渦糸のない状態にした後、温度を超伝導転移温度以下に保ったまま磁場を増加させました。約540μTで磁束が侵入し始め、さらに共振周波数を横切るようにマイクロ波を掃引すると、ネックの最も細い領域付近に新たな2本の渦糸が現れました。磁場を約630μTまで増加して再びマイクロ波掃引を行うと、複数の渦糸がネックへ侵入しました(図4)。渦糸は特に、幅広いコプレーナ線路から細いネックへ移るテーパー部の近傍に現れやすいことも分かりました。
QDMが「狭窄部へ渦糸が離散的に侵入する」ことを空間的に直接示し、マイクロ波測定が同じ狭窄構造で「離散的で履歴を伴うインピーダンス変化」を示したため、両者が幾何学的・微視的に整合することから、周波数段差が個々の渦糸侵入イベントに対応するという解釈が裏付けられました。

磁場およびマイクロ波駆動による渦糸侵入のQDM観察
図4:磁場およびマイクロ波駆動による渦糸侵入のQDM観察
(a)ほぼゼロ磁場で冷却した直後(ZF)、約540μTまで磁場を増加した後、540μTでマイクロ波掃引を行った後、約630μTまで増加して再びマイクロ波掃引を行った後の磁場像。(b)540μTでのマイクロ波掃引前後のネック付近の拡大像。掃引後に個々の渦糸が新たに現れることが確認できます(ネック幅2μm、イメージング温度約6.4K)。

研究の意義、今後の展望
本研究により、超伝導マイクロ波共振器そのものを、磁束量子1個を検出する高感度センサーとして利用できることが示されました。読み出しにはベクトル・ネットワーク・アナライザを用いた標準的なマイクロ波伝送測定を利用でき、高速かつ多重化可能です。個々の渦糸による離散的な周波数シフトを識別できることから、渦糸を局所的で再構成可能な情報担体として利用できる可能性も示唆されます。
本手法は、渦糸がどのように超伝導回路へ侵入し、その特性に影響を与えるかについての理解を深めるだけでなく、単一渦糸レベルでの渦糸の運動やピン止め、マイクロ波によって駆動される渦糸状態を研究するための新たなプラットフォームとなる可能性があります。さらに将来的には、超伝導デバイス中の渦糸状態がもつ微視的な性質や量子的な性質を調べる手法としても役立つことが期待されます。

発表者・研究者等情報
東京大学素粒子物理国際研究センター
 Kirill Shulga 特任研究員
 稲田 聡明 助教
東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻
 西村 俊亮 研究当時:博士課程
  現:Postdoc Employee, Department of Electrical and Computer Engineering, University of California, Riverside
 長谷川 亮太 修士課程
 佐々木 健人 助教
 小林 研介 教授
  兼:同研究科附属知の物理学研究センター 教授
コネチカット大学物理学科
 Pavel A. Volkov Assistant Professor
アリゾナ大学物理学科
 平野 美愛 博士課程
東京科学大学工学院 電気電子系
 岩﨑 孝之 教授
 辻 赳行 研究当時:博士課程
  現:物質・材料研究機構(NIMS)国際・若手研究センター ICYS Research Fellow
 波多野 睦子 工学院特命教授

論文情報
雑誌名:Physical Review Letters
題名:Observation of Individual Vortex Penetration in a Coplanar Superconducting Resonator
著者名:Kirill Shulga, Shunsuke Nishimura, Pavel A. Volkov, Miu Hirano, Toshiaki Inada, Ryota Hasegawa, Takeyuki Tsuji, Takayuki Iwasaki, Mutsuko Hatano, Kento Sasaki, Kensuke Kobayashi
DOI:10.1103/4zw3-hm6t
URL: https://doi.org/10.1103/4zw3-hm6t

研究助成
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR23I2)、科学研究費助成事業(課題番号:JP25H01248、JP24K21194、23K25800、JP22K03524、JP25K00934、23H04864)、公益財団法人セイコーインスツル新世代研究財団のATF研究助成、東北大学電気通信研究所共同プロジェクト研究、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(ARIM)(課題番号:JPMXP1222UT1131、JPMXP1224UT1047、JPMXP1225UT1027)、文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」(課題番号:JPMXS0118067395)、IBM-東京大学 Sponsored Researchの支援により実施されました。また、東京大学低温科学研究センターの共同利用施設「Millikelvin Quantum Platform」を利用しました。

用語解説

  • (注1) コプレーナ型マイクロ波共振器(CPW共振器):同一平面上に中心導体と接地導体を配置した伝送線路を用いて、特定のマイクロ波周波数で強く共振する超伝導回路。本研究では1/4波長型の共振器を用いています。
  • (注2) アブリコソフ渦糸:II型超伝導体へ磁場が侵入するときに形成される、磁束を伴う微小な渦状構造。1本の渦糸は1磁束量子を担い、中心部では超伝導が弱くなっています。
  • (注3) Q値(品質係数):共振器に蓄えられたエネルギーがどれだけ失われにくいかを表す指標。Q値が高いほど損失が小さく、共振が鋭くなります。渦糸の侵入は追加の散逸を生み、Q値を低下させます。
  • (注4) NVセンター:ダイヤモンド結晶中で、炭素原子が窒素原子に置き換わり、その隣に空孔(vacancy)が存在する点欠陥。局所磁場によって変化した量子状態を光学的に精密に読み出せるため、高感度磁気センサーとして利用されます。
  • (注5) II型超伝導体:ある磁場範囲で、超伝導状態を保ちながら磁束が渦糸として内部に侵入する超伝導体。ニオブなど多くの実用超伝導材料がこの性質を示します。
  • (注6) 磁束量子:超伝導体中の磁束がとる最小単位。記号Φ0で表され、アブリコソフ渦糸1本が1磁束量子を担います。
  • (注7) ピン止め(ピンニング):材料中の欠陥や人工構造によって渦糸の位置が固定され、外力に対して動きにくくなる現象。本研究の狭窄部では渦糸が局所的に捕捉され、磁場履歴に依存する応答につながります。