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大谷研究室 榊原澪氏が第16回(2025年度)測定器開発優秀修士論文賞を受賞

高エネルギー加速器研究機構・測定器開発センターは、測定器開発の研究分野の一層の充実と裾野の拡大を目指し、関連実験分野における優秀な修士論文を毎年表彰しており、今年で16回目を数えます。この賞は、修士課程で測定器開発に携わる学生を奨励するとともに、人材育成の出発点である大学院教育と実験の要となる測定器開発の技術力向上に貢献し続けています。
このたび、大谷研究室博士課程1年の榊原澪氏は、次世代の高感度荷電レプトンフレーバー非保存探索に向けた新しい光子測定手法の実現可能性に関する研究の論文を纏め、測定器開発優秀修士論文賞を受賞しました。世界的に注目されているミュー粒子の稀崩壊μ→eγ探索での表彰は、素粒子物理学の歴史を塗り替える可能性を持つ極めて重要な業績として評価されたことを意味しています。

榊原澪

対象発表

感度10-15のμ→eγ探索を目指したアクティブコンバーター型光子ペアスペクトロメーターの開発 修士論文

受賞理由

本論文では、荷電レプトンフレーバーを破るミュー粒子稀崩壊μ→eγの探索実験のための新たな光子検出器の開発がまとめられている。 現在、スイス・ポールシュラー研究所では、現行のミュー粒子ビーム強度を100倍に増強する計画があり、このビームを用いた次世代のμ→eγ探索実験の計画が進められている。その一方で、更なる実験感度の向上のためには、大幅に増加する背景事象を強力に抑制する、高レート環境下で動作する高性能光子検出器を実現する必要があった。
そこで本研究では、光子を薄いコンバーター層で対生成により電子・陽電子対に変換し、その運動量をペアトラッカーで測定する「アクティブコンバーター型光子ペアスペクトロメーター」を開発した。コンバーターの材質としてシンチレーターを使用し、反応点でのエネルギー、時間情報を取得することで、高いエネルギー、時間分解能が得られる。 本研究ではぺアスペクトロメーターによる測定の原理実証として詳細なモンテカルロシミューレションを行い、信号効率・レート耐性・背景スペクトラムへの影響を包括的に評価した。コンバーター厚みおよび層構造を最適化するとともに、高レート環境においても性能が維持される設計条件を明確化した。また、LYSO結晶を用いた試作機を製作し、電子ビーム試験を実施した。その結果、約25psの時間分解能およびO(104)光電子の光量という、設計要求を大幅に上回る性能が得られた。これらの結果を元に将来実験の感度を見積もったところ、3年間のデータ取得で現行実験であるMEG II実験よりも1桁高い、O(10-15)の分岐比感度に到達可能であることを示した。
本研究は、次世代μ→eγ探索実験実現に向けた大きなステップであると同時に、大強度ビーム実験に適用可能な高レート環境下での高性能測定技術の開発に繋がるものであり、測定器技術分野に対する多大な貢献であると評価される。

感想と今後の抱負

このたびは、測定器開発優秀修士論文賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。修士論文にまとめた将来のμ→eγ探索実験に関する研究は、大谷先生をはじめとする多くの方々の支えによって成り立ったものであり、心より感謝申し上げます。
今後は博士課程において、修士での開発経験を活かしつつ、データ解析の側面から現行のMEG II実験に貢献し、μ→eγ発見の可能性を最大限に高められるよう研究を推し進めていく所存です。今回の受賞を大きな励みとし、博士号取得に向けて一層の努力を重ねてまいります。

関連リンク

第16回(2025年度)測定器開発優秀修士論文賞 (関連サイト)