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奥村研究室 山下恵理香氏がATLAS Week 2025 in PaestumでPoster Awardを受賞

ATLAS Weekは、検出器の運転やトリガー、実験データのオンラインリアルタイム処理、物理解析、将来実験計画のための検出器アップグレードなど、特定のタスクを集中的に議論するために多くのワーキンググループを編成し、年に数回、定期開催されています。第一線の研究者から大学院学生までが毎回参加しており、ATLASコラボレーションの優れた実験結果の背後にある原動力となっています。今年は10月13日~17日にかけてイタリア・パエストゥムで開かれ、センターの博士課程大学院学生を含めた総勢209名が集結しました。

ATLAS Week 2025 in Paestum
ATLAS Week 2025 最終日の Poster award 発表セレモニーの様子

研究課題

Sensitivity study of stau search with small mass splitting in the leptonic-hadronic decay mode at ATLAS

受賞対象の研究について

本研究はLHC-ATLAS実験における超対称性粒子探索に関するものです。標準模型は多くの実験結果をよく説明していますが、暗黒物質の存在や階層性問題などの課題が残されており、これらの課題を解決し得る理論の一つとして超対称性理論が有力視されています。超対称性理論では多くのモデルが考えられますが、本研究では特に、最も軽い中性の超対称性粒子(LSP)であるニュートラリーノの成分をビーノ粒子が占め、そのわずか数十 GeV 上にタウ粒子の超対称性パートナーであるスカラータウ(スタウ)が存在するシナリオを対象としています。LSPは暗黒物質の候補粒子であり、このシナリオはCoannihilation(共消滅)機構の効果により暗黒物質の残存量が観測量と整合する可能性があるため動機づけられています。
本研究が対象とする領域の信号事象は、スタウ由来の低運動量の2つのタウ粒子と、LSPおよびニュートリノに由来する大きな消失横エネルギー(MET)で特徴づけられます。この領域は低運動量タウの識別の難しさと、大量に混入する背景事象との弁別の困難さから未探索となっていました。本研究ではLepHadチャンネルを対象に、物理的な解釈において明瞭性の良いCut & Count法の解析手法を採用し、上述の特徴を強く反映する変数であるM_T2や、タウとMETの角度差などの幾何的な位置関係、collinear approximationを用いて計算した質量などの変数などを組み合わせて使用することで、感度の最適化を達成しました。

感想と今後の抱負

このたびは貴重な賞を頂き、大変光栄に思います。今回の受賞は、日頃よりミーティング等でご指導くださっている奥村准教授、石野教授をはじめ、頼もしい共同研究者や、ミーティングでアドバイスをくださった研究室の皆様の支えによるものだと感じています。本研究に関わってくださった他大学の方々を含め、すべての皆様に心より感謝申し上げます。
ポスター発表では、若手研究者からベテランまで、ATLASに携わる多くの研究者の方々と議論を交わすことができ、大変貴重で楽しい機会となりました。今回の受賞を励みに、まずは博士号取得を目指して、今後も一歩ずつ成果を積み重ねていきたいと思います。