現代の素粒子物理、原子核物理、宇宙物理分野の大規模実験プロジェクトでは、加速器の高輝度化や測定器の高精度化に伴い、大量のデータ処理が必須となっています。計算機を駆使して実験データを処理し物理成果をあげることは、大規模実験のみならず小規模実験においても当然のように行なわれており、各実験プロジェクトにおける“計算機技術”はひとつの大きな柱として注目されています。
この重要性にいち早く着目した粒子物理コンピューティング懇談会(有志)が主催する「粒子物理コンピューティングスクール」は2017年度のスタート以降、全国の大学の修士課程大学院生をコアの対象に毎年夏に開催されており、コンピューティングを主題とした集中トレーニングを通して最新の計算機利用技術を習得するとともに、ソフトウェア開発に挑戦するモチベーションを高め、計算機のプロフェッショナルとして国際的に活躍する人材の育成を目指しています。
今年は7月28日から8月1日の5日間にわたって、高エネルギー加速器研究機構令和7年度加速器科学国際育成事業(IINAS-NX)の支援を得て、同機構で開催しました。4日間の受講・実習の後、5日目の最終日には学生一人ひとりがスクール期間中に取り組んだ実習成果の発表会が設けられており、全参加者のなかで評価の高い学生数名に贈られる「優秀発表賞」を奥村研究室修士1年の橋爪康希氏が受賞しました。
対象発表
分散コンピューティング
感想と今後の抱負
今回、私は「分散コンピューティング」というテーマで発表を行ない、優秀発表賞をいただきました。「分散コンピューティング」とは世界中の計算機資源を活用して、計算負荷を分散し効率的に活用していく技術であり、私の参加するATLAS実験において重要であるとともに、技術そのものもとても興味深いものであると思い、テーマに設定しました。具体的には、効率的にジョブを投げるためのミドルウェアであるDIRACを用いてサンプルデータの解析に取り組みました。また、よりDIRACを使いやすくするためのスクリプトをAPIを用いてPythonで実装しました。
実習のまとめとしてスクール最終日に発表を行ない、その発表が評価していただき今回の受賞となりました。このテーマを通じて高エネルギー物理学におけるデータ解析についてより深く理解することができました。また、粒子物理コンピューティングサマースクールの5日間でソフトウェア研究の最先端に触れる講義を受講するとともに、国内の同分野の学生ともたくさん交流することができました。私は修士の期間はATLAS実験のミューオントリガーに関するハードウェアの研究を行なう予定ですが、このスクールをきっかけにソフトウェアについても積極的に学んでいきたいと考えています。
最後になりますが、このような機会を設けてくださった世話人の先生方、誠にありがとうございました。
関連リンク
第八回粒子物理コンピューティングサマースクール(PPCC-SS-2025) (関連サイト)