標準理論を超えて

標準理論が直面するいくつかの限界

標準理論は、早くからその限界も指摘されていた。そのひとつが「重力」を扱えないことだ。現代の物理学では、「重力」、「電磁気力」、「強い力」と「弱い力」の4つの力を統一的に説明する究極の理論の構築を目指している。138億年前の原初宇宙では、ただ1つの力が存在し、時間とともに4つの力に分岐したのではないかと考えられている。その謎を解く鍵を素粒子が握っているとされるが、「重力」は標準理論の射程外とされているだけでなく、「重力」以外の3つの力の統一(大統一理論)もまだ完成していない。

もうひとつの限界は、宇宙に存在すると考えられる物質やエネルギーのうち、標準理論で説明可能なのはわずか5%にすぎないことだ。天文観測技術の発達により、宇宙には目に見えない(光を発しない)大量の謎の物質「暗黒物質(ダークマター)」が存在することが1960年代半ばに明らかになった。さらに1998年には、宇宙が現在、加速膨張していることが突き止められたが、その理由が解明されておらず、正体不明のエネルギー「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」の存在が指摘されている。それぞれ、宇宙の27%と68%を占めるとされる。

さらに、LHCで発見されたヒッグス粒子の質量が、大統一理論や究極の理論のエネルギースケールに比べて、はるかに軽いという謎がある。さまざまな点で、標準理論を超える理論が求められている。

図版 標準理論が直面するいくつかの限界

標準理論を超える究極の理論とは

素粒子物理学は、標準理論を拡張する新たな理論の構築と、それを証明する観測や実験に挑み始めている。

研究者たちの期待を集めているのが、「超対称大統一理論」だ。この理論では、標準理論に登場する17の粒子に加え、各粒子に対して、パートナーとなる粒子「超対称性粒子」の存在を予言している。

もっとも軽い「超対称性粒子」は「暗黒物質(ダークマター)」の候補であり、ヒッグス粒子の質量の軽さを自然に説明することもできる。重力を除く3つの力を統一的に理解する「力の大統一」も可能になる。研究者たちが次に狙うのは、「超対称性粒子」の発見であり、「超対称大統一理論」を実証する現象の捕捉だ。東京大学素粒子物理国際研究センターが力を入れて取り組む実験も、そのためのものだ。

さらに、厄介な「重力」をも統合する究極の理論も提唱されている。それが、素粒子を振動する「ひも」ととらえる「超ひも理論(超弦理論)」だ。この理論を実証する実験方法は考え出されていないが、素粒子物理学の歴史は、先人たちの予言を実証する実験技術の発展の歴史でもある。素粒子物理学がその地平に辿り着く日も、そう遠くはないかもしれない。

図版 標準理論を超える究極の理論とは