C04班進行状況報告

超対称模型の現象論的研究

過去20年に以上に渡る実験により、クォーク、レプトンとゲージ粒子の相互作用の解明がなされ、標準模型のゲージ理論としての側面の確からしさが立証されてきた。しかし、標準模型には、階層性の問題、電弱対称性の破れやフレーバー構造の起源など、まだ未知の側面がある。これらは標準模型の背後にある新しい物理によって解明がなされると考えられ、その実験的、理論的解明が今後の素粒子物理の大きな課題である。この計画研究では超対称模型をはじめ、ブレインワールド模型、リトルヒッグス模型などの標準模型を超える物理模型に関して、将来の加速器、非加速器実験における検証可能性や宇宙論への影響などを検討してきた。

(i)超対称模型におけるフレーバー物理

超対称模型では、超対称パートナー粒子が新たなフレーバー混合を引き起こし得るため、Bファクトリー実験やMEG実験などに観測可能な効果を生み出すことが期待できる。この研究では超対称パートナーによる量子補正の効果を解析し、これらの実験により超対称性の破れの構造をどのように解明することができるかについて調べた。ひとつは、最近Bファクトリー実験で観測され注目を集めているB中間子のタウ粒子を含む崩壊モードに関して超対称模型で現れる新しい寄与を計算した。また、現実的なクォーク、レプトンの質量行列を実現するSO(10)群に基づく超対称大統一理論でレプトンフレーバーの破れの効果や陽子崩壊現象などの解析を行った。

(ii)将来加速器実験における新しい物理の検証可能性について

新しい物理の候補の一つであるブレインワールド模型について、そこに含まれるカルーザ・クライン重力子の効果をLHC実験やILC実験でどのように検証できるかを考察した。特に、重力子のスピン2の効果をどのように検証するかについて、実験家との共同研究によりシミュレーション解析を行った。また、ILC建設に向けての活動の一環として、高エネルギー加速器研究機構においてミニ・ワークショップを2005年3月と5月に開催した。これは、アジア領域でのILC物理の研究活動の活性化を図ることを目的とするものである。韓国、台湾、インドのコライダー物理の中心的な理論研究者の参加を得て、各国での活動状況の報告と今後の方向性、また国際共同研究に向けての議論を行った。この会議をきっかけに、いくつかの国際共同研究が発足した。

(iii)新しい物理の宇宙論への影響について

宇宙論における暗黒物質の問題や宇宙のバリオン非対称の起源などは、標準模型の枠内で説明することが不可能な問題であり、新しい物理の存在を強く示唆している。超対称模型をはじめ、暗黒物質の候補となり得る粒子を含む新しい物理の模型はいくつか存在する。最近提唱されたリトルヒッグス模型では、特にTパリティーと呼ばれる離散的対称性を課した場合には暗黒物質の候補粒子を含むことができる。ここでは、この模型において予言される暗黒物質の候補粒子の初期宇宙での残存量を計算し、現在の観測から決められた暗黒物質量と合致するためのパラメーター領域を明らかにした。次に、この暗黒物質が我々の銀河のハロー内で対消滅して生成する陽電子のフラックスを計算し、近い将来に計画されている宇宙線観測(PAMELA,AMS-02)でこの模型の暗黒物質粒子をどのように探ることができるかを示した。

宇宙のバリオン非対称性の起源を説明するシナリオの一つに初期宇宙での電弱相転移によってバリオン数生成を行うシナリオがある。これが実現するためには十分強い一次相転移が起こらなければならないので、標準模型のヒッグスセクターの拡張が必要である。この研究では二重項ヒッグス場を二つ含むように拡張した模型で電弱相転移とヒッグス粒子の現象論の関係を調べ、電弱バリオン生成が可能な場合にはヒッグス粒子の三点結合の量子補正が大きくなることを示した。この大きさの補正は、将来ILCにおけるヒッグス粒子の自己相互作用の精密測定で検証される可能性が高い。

新しい物理の模型の一つであるブレインワールド模型における宇宙論では、初期宇宙において従来の4次元宇宙とは異なる膨脹則に従うことが知られている。この効果を取り入れた際には、宇宙初期における素粒子過程の関連する物理に変更が生じることが期待できる。このブレイン宇宙論の効果が、熱的なレプトン数生成や超対称模型の暗黒物質の残存量などの計算にどのように影響を及ぼすかにを明らかにした。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新