C03班進行状況報告

超対称統一模型と電弱対称性の破れ

1.超対称統一模型と電弱対称性の破れ

超対称模型に右手型ニュートリノを加えたモデルにおける電弱ヒッグスポテンシャルの解析に取り組んだ。まず超対称標準模型におけるポテンシャルの大域的構造を解析し、結合定数の微調整問題を一般的に評価した。とくに SO(10) 群以上の大統一理論の場合は、対称性の破れ自体が容易でない。この微調整問題を解決し、正しく対称性の破れを引き起こすために、高エネルギースケールのニュートリノ物理が果たす役割を明らかにし、ニュートリノの結合定数により引き起こされる電弱相互作用の新たな破れの機構を提唱した。

2.超重力理論におけるモジュライ場の物理

超対称理論は一般に多様に縮退した真空を持ち、その自由度に対応した質量ゼロの場 (モジュライ場) を伴う。統一理論の有力候補である超弦理論では一般に、低エネルギー有効理論に多数のモジュライ場を伴ってしまうが、非自明なフラックスを含む超弦理論のコンパクト化では、ほとんどのモジュライ場が安定化される。この場合において、超対称性の破れ、超対称標準模型への応用から電弱相互作用領域の現象論、および暗黒物質などの宇宙論的な振る舞いを詳しく研究した。

3.Bの物理と超対称性

超対称模型において  $\bar{B}\to X_s\gamma$,$\bar{B}_s\mu^+\mu^-$,$\bar{B}_s$-$B_s$ 混合の過程について詳しく検討した。始めに、これまでは考慮されていなかった電弱相互作用の効果まで取り入れ、leading logarithmic order を超える解析を数値的に行った。この解析により $\bar{B}_s\mu^+\mu^-$, $\,\bar{B}_s$-$B_s $ 混合は超対称理論の b-s混合に強い感度を持っていることを見いだした。最近発表された Tevatronでの$\bar{B}_s$-$B_s $ 混合および $\bar{B}_s\mu^+\mu^-$ 実験の報告に基づけば、tan(β)の大きな領域で右巻きスカラーダウンクォークの b-s混合に極めて強い制限を与えていることを明らかにした。

4.歪曲高次元空間の安定化

高次元模型の現実世界への応用に際し、最も重要な点は余剰次元の安定化である。5次元の超対称量子電磁力学では、輻射補正の効果によって、5次元目の大きさが自発的に安定化すること示した。具体的には、Randall-Sundrum時空において、Fayet-Iliopoulos 項を評価し、5次元目の大きさを表す場 (radion) のポテンシャル構造を調べた。またこの安定化機構により radion場は超対称性の新しい形の破れを引き起こすことを見いだし、湯川相互作用の物理と関連して現実の系への応用を試みた。

5.クォーク・レプトンの質量行列の解析

物質場の質量の観測値は規則的な構造を持っているため、背後に隠れた理論構造を見いだすべく様々な角度からの取り組みがある。この2年間は次の2手法により研究した。一つは単純化の手法、すなわち幾つかの結合定数をゼロとする湯川行列形を系統的に調べあげた。統一理論との関わりを探求し、ごく限られた数の行列が観測と無矛盾であることを見いだした。また、得られた行列が生み出す特徴的な物理現象 (レプトンフレーバーの破れ、CPの破れ、二重ベータ崩壊、宇宙のバリオン数生成など) を評価した。もう一つの手法として、世代間対称性の考察を行った。今年度は、置換群 S3 に焦点をあて、大統一理論や高次元理論において、ニュートリノ物理との関わりを模索した。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新