C01班進行状況報告

超弦理論のコンパクト化に基づく標準模型へのアプローチ

江口は N=2リュービル理論の力学を調べ、モジュラー・ブートストラップの手法を用いて理論の境界状態を分類した。また、N=2リュービル理論を用いて、特異性をもつ種々のカラビ・ヤウ多様体の位相不変量を求めた。江口はまた、幾何学的転移の手法を用い、S3上のチャーンーサイモンズ・ゲージ理論のリンク不変量から出発して、非コンパクトなトーリック・カラビ・ヤウ多様体上にコンパクト化された位相的弦理論の振幅を正確に求め,

NekrasovのN=2超対称ゲージ理論のインスタントン振幅の拡張と完全に一致することを確かめた。また非コンパクト・トーリックカラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量が頂点作用素などを用いて2次元共形場の理論の手法を用いて正確に計算できることを示した。さらに,現在大きな論争を巻き起こしているflux compact化やstring landscapeの問題に関係して、カラビーヤウ多様体のモジュライ空間の特異点付近でタイプII超弦理論の真空の分布密度の振る舞いを調べた。モジュライ空間の特異点付近では、(1)非可換ゲージ対称性が生成される、(2)質量の無い物質場が生成される、(3)N=2超対称性を持つ4次元の共形場の理論が生成されるなど興味ある非摂動的な現象が起こる.江口は真空の分布関数の値そのものは特異点で発散するがその積分は有限である事を示した。弦理論の真空は特異点付近に集中しているため、この結果はタイプII弦理論の持つ真空の数が全体で有限である事を示唆している。

伊藤は,非可換超空間上の超対称ゲージ理論を構成し, その作用と変形された対称性について研究を行った。特にN=2超対称性をoff-shellで定義できるN=2調和超空間上の一般的な非反可換変形について詳しく研究した。 N=2非反可換調和空間上のN=2超対称U(1)ゲージ理論の変形された作用を一般の変形パラメータについて1次まで具体的に求めた。さらに変形されたゲージ変換を変形パラメータの任意次数で計算し,変形されたカイラルN=2超対称変換をパラメータについて1次まで計算した。

さらに,非反可換N=1超空間上のN=2超対称U(N)ゲージ理論のインスタントン解と中心荷の計算を行い、非自明な効果があることを示した。

川野は,p-進数開弦理論にB場との相互作用項を提唱し,時空の低エネルギー有効作用であるタキオン場の作用を計算した。通常の弦理論で生じたように,有効作用は非可換な空間上で定式化されていることを示す非局所的な効果を生み出すばかりでなく,それ以外の非局所的な相互作用をp-進数弦の場合には,生ずることがわかった。また,超対称性の力学的な破れを示す現象論的に興味深いモデルである,スピン表現を持つSpin(10)超対称性ゲージ理論のSuperconformal 固定点について,a-Maximizationという最近編み出された手法を用いて,詳細に調べた。

この計画班では,平成17年8月9日~14日にわたって,北海道札幌において長期滞在型研究会を開いた。講師としてドイツからKlaus Behrndtを招聘してFlux Compactificationに関する講義を中心に,セミナーなどを通じて,ポスドクや助手といった若手を中心とした約30名の参加者による活発な議論や情報交換が行われた。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新