B02班進行状況報告

超対称理論における世代構造とレプトン・フレーバーの破れの研究

本研究では、レプトンの世代混合の発見を通じて新しい物理を探るための理論的研究を進める。レプトンフレーバーの破れを説明する標準模型を超える物理の枠組み、特に超対称理論について、研究を進める。

 主な研究テーマとして、1)超対称理論におけるクォークおよびレプトンセクターの世代混合の研究、2)上記の研究の基礎となる超対称性の破れの起源に関する現象論的、宇宙論的研究、3)1)の研究の基礎となる超対称理論の量子補正の研究、などがあげられる。

 それぞれのテーマについて、過去2年間で次のような成果を挙げた。

1)のテーマに関連し、次のような研究を行った。Bファクトリーでは標準模型では説明できないアノマリーが報告されていた。特に最新のデータでは、2つ以上のパリティの異なる終状態で同じ方向に標準模型からずれているという特徴を持っている。もしこの実験データが本当だとすると、これを説明する新しい物理が標準模型のもつカイラリティー構造と同じ構造をもつオペレーターを誘起していると考えられる。我々は、本研究において、超対称理論のもとでは、左巻きクォークの超対称対がもつ大きな世代混合がこの寄与を与えていると考えることが自然であることを示した。また、この考察がもたらすレプトンセクターの世代混合への示唆について研究を進めてきた。

2)の研究について。重力子の超対称対であるグラビティーノの宇宙論の研究を進めた。不安定なグラビティーノの残存量に対する宇宙初期元素合成からの制限を、ハドロンジェットの影響、および現実的な超対称粒子の質量スペクトルのもとでのグラビティーノのカスケード崩壊の効果を取り入れて再解析し、従来よりもはるかに厳しく、かつ精度の高い制限を得ることに成功した。また、超弦理論で現れるモジュライ場のダイナミクスを現象論的立場から議論し、その立場から自然な超対称性の破れを伝播する機構を提唱した。このとき特徴的な超対称粒子の質量スペクトルが得られることが分かった。また、この場合にモジュライ場の崩壊によるグラビティーノの生成が宇宙論的に重要であることを指摘した。この方面の研究は引き続き行っている。こうした研究によって、超対称性の破れとその伝播の機構について新たな知見を得ることができ、ひいては、超対称粒子の世代間混合によって誘起されるレプトンフレーバーの破れの理解につながる。

3)の研究について。

ヒッグス粒子とチャージーノの相互作用を、1ループ補正をすべて取り入れて計算し、補正の大きさが典型的に10%となることを示した。またbクォークがsクォーク遷移する過程について高次QCD量子補正を計算し、大きな補正が生じる場合があることを示した。こうした研究は、超対称理論における世代混合を理解するうえで、基礎的な研究となる。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新