B01班進行状況報告

ミュー粒子稀崩壊探索実験MEGで迫る超対称性大統一理論

本研究は、標準理論では起こり得ないミュー粒子崩壊μ→eγを、独創的な優れた実験装置を用いて、力の大統一やニュートリノ質量から期待される極微の分岐比まで徹底探索し、超対称性の存在を通して超高エネルギーの物理に迫ろうとするものである。本研究の研究者が提案した実験MEGは、世界最強度DCミュー粒子ビームを持つスイスPaul Scherrer Institute(PSI研究所)において、スイス・イタリア・ロシア・米国の研究者と協力して、現在実験装置の製作・設置を進めており、2006年度中に実験開始に向けて全実験装置を稼働させる予定となっている。

ミュー粒子ビームについては、ビーム輸送ソレノイド電磁石(BTS)が完成し、陽電子スペクトロメータ超伝導磁石(COBRA)の上流に設置してビーム調整を行ったところ、ターゲット位置で必要強度を上回る1×108μ/secのミュー粒子が得られた。COBRA、BTS両電磁石については、励磁して磁場測定を行い、計算値との一致を確かめた。

MEGビームライン。後方に見える大きなリングがCOBRAの補償コイル。

実験の要となる液体キセノンガンマ線検出器は、実験中パイ中間子ビームを使って較正を行うが、実際にプロトタイプ検出器についてビーム試験を行って評価した。またその際、MEG用に開発した高速波形ディジタル化回路を読み出しに用いて評価試験を行った。検出器性能に影響を及ぼす可能性のある中性子バックグラウンドについても測定を行い、問題のないレベルである事を確認した。検出器の真空断熱容器は現在イタリアにて製作中であり、7月に最終試験を行った後PSIに納入される予定である。光電子増倍管サポート、キセノン純化システムや真空系は順調に製作・試験・組み立てが進んでいる。光電子増倍管は全数について液体キセノン中で性能試験を行った。現在取り付けのための準備作業を進めている。較正用NaI検出器システムも製作・組み立て中である。

液体キセノン検出器の断熱真空容器(左)。右は、光電子増倍管のサポート構造。

他のタイミングカウンター、ドリフトチェンバーなどの測定器も製作と試験が進んでおり、6月から9月にかけて順次ビームラインに設置する予定である。トリガーなどの回路や実験制御系(slow control)の試験も行った。また、実験シミュレーションやデータ解析ソフトの開発を現在急速に進めており、ミュー粒子ビーム強度や解析手法の最適化を検討している。

μ→eγ事象のシミュレーション。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新