A03班進行状況報告

アトラス実験での精密測定と標準理論を超えた物理の研究

本計画研究では重心系エネルギー14兆電子ボルト(TeV)の陽子・陽子衝突実験における精密測定を行い、標準理論の検証および標準理論では説明出来ない現象を発見しようとするものである。

日本チームが当初から設計から製作まで参加担当してきたシリコン飛跡検出器は反応事象の正確な理解には不可欠である。日本で製造・検査されたシリコン検出器モジュールを英国オックスファード大学に送り、カーボンファイバー製円筒上に高精度に装着し動作確認を行なった。据付完了後にCERNにおいて外側に来るストロー飛跡検出器と一体化した。飛跡検出器全体は宇宙線を使って検出器の動作確認を行うが、そのためのデータ収集の準備を進めた。また運動量の測定のためには粒子が通過する物質量を正確に知っておく必要があるが、シリコン検出器およびサービス類の物質量を2%の精度で評価した。

データ収集システムではイベントビルディング(測定器の各部から並列に来るデータを超高速でイベント毎にまとめる装置)開発の一環として、測定器のキャリブレーションやデバッグのための部分的なイベントフラグメントのみで生成されるパーシャルイベント生成機能を現状のシステムに組込む研究を行った。またアトラス測定器全体のオンラインソフトの内のトリガーのタイミングを管理するプログラムの開発を行った。

アトラス標準のデータ解析の枠組みは出来ているが、解析ツールはまだ途中段階であり、これらのツールの評価・改善を行っている。物理現象についての検討作業も、これまでの簡易シミュレーションを用いた研究から、フルシミュレーションプログラムを用い実験環境により近い状況での検討作業へと移行しつつある。特にレプトン信号に対する測定器効果により生じる疑似信号の効果とその物理結果に与える影響などの研究を行った。量子色力学(QCD)反応による事象は大きなバックグランドとなるので、この高次の反応の理解は特に重要である。このため理論家と協力しハドロンコライダー用事象発生プログラムの開発、およびアトラス実験での検討を行った。


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新