A01班進行状況報告

アトラス検出器を用いたヒッグス粒子の発見

物理解析を行うための計算インフラの開発においては、本センターの計算資源にLCG2と呼ばれる計算グリッドミドルウエアを導入し、世界規模で配備された計算グリッドの一翼を担い、主にATLAS実験のための大量シミュレーション計算やデータ解析を通して解析インフラの実証を行ってきた。2006年3月には東京大学とCERN研究所の間で世界規模LHCコンピューティンググリッド配備運用に関する覚え書きに調印し、それに従って東京大学に地域解析センターパイロットモデルシステムとして導入された計算機システムを使用してグリッドの運用を続けている。2006年6月からは最後のシステム実証試験であるサービスチャレンジ4を行い、10月からはLHC実験データ解析のためのプロダクションシステムとして本格運用が始まる予定である。また、世界各国と共同で進めるグリッドシステムとは独立に我々独自のテストベッドを構築し様々な研究開発を行ってきた。こちらは現在本センター、高エネルギー加速器研究機構、神戸大学を接続して運用しており、これからの高エネルギー物理実験データ解析のための計算インフラに発展する可能性を持っている。

ATLASの物理解析の準備研究も精力的に進めてきた。特にベクターボソン融合過程による標準理論のヒッグスの発見に大きく貢献して、ヒッグスがttに崩壊した場合の成果は、Euro.Phys. Jに掲載された。これは従来難しいとされていた130GeVより軽いヒッグスの発見能力を飛躍的に高めた。更に、ヒッグスが二つのgに崩壊した研究を進めた。このチャンネルは、H→ggの他のモードと合わせて、最初の一年の実験でヒッグス粒子を5σ程度の確度で発見する上で極めて重要な成果であった。

 これらの研究活動と平行して、広く国内の若手研究者の為の研究会を隔週で行った。研究会の内容はQCDの基礎講義、ATLAS検出器から、物理解析の最前線の研究までの広範囲に及び、のべ17回に及ぶ研究会を通して、若手研究者にLHC実験に参加する機会を設けた。また国内のアトラス実験参加研究機関に所属する大学院学生、若手研究者を集めて、ソフトウェアの習熟と物理の研究を進めるワークショップを二度開催した。前述の計算機資源を用いて、シミュレーションデータを生成し、計算グリッドを用いるなど実際に近い環境でプログラムを動かしながら、多くのデータ解析訓練を行ってきた。

 平成17年度から準備を進め、平成18年5月15日から19日には世界各国から参加者を招き、ATLAS Physics Analysis Toolsに関するチュートリアルとワークショップを東京大学小柴ホールで開催した。この会議には世界各国から30名を越える研究者を含め全体で60名が参加した。これはアジア地区で開催されたソフトウエアに関する最初の会議で、中国・台湾・オーストラリアの参加者から特に歓迎された。(写真はワークショップ参加者の集合写真)


本ページに関する問い合わせ先:東大素粒子センター・坂本 宏sakamoto@icepp.s.u-tokyo.ac.jp

2006年6月23日更新