( Corinne Pralavorio氏の記事をもとに、新たに日本語版として書き直したものを掲載いたします。)
12年間に及ぶ稼働を経て、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)におけるデータ収集が、一旦完了しました。過去の素粒子実験と比較し桁違いの量の実験データ取得に成功し、数々の歴史的成果を達成しました。性能を劇的に向上させた「高輝度LHC(HL-LHC)」へ生まれ変わるため、4年間の大規模改修に入ります。
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、12年間に及ぶデータ収集を2026年6月14日に完了しました。
加速器に設置された4大実験装置(ALICE、ATLAS、CMS、LHCb)のコントロールルームで研究者たちが見守るなか、物理実験のためのデータ収集は全プログラムが完了しました。完全にシャットダウンする前の2週間、将来の高輝度運転に向けた最終テストのため、LHCのリング内には引き続きビームが周回します。
その後、LHC本体と各実験装置は、4年間にわたる大規模なアップグレード期間(長期シャットダウン期間)に突入します。そして2030年、LHCは次世代の高輝度LHC(HL-LHC)へと生まれ変わり、これまでを遥かに凌駕する超高輝度の運転を開始予定です。
2010年の運転開始以来、第一期から第三期にわたって行われた高エネルギー運転の足跡を振り返ってみましょう。
LHCがATLAS・CMS、それぞれに供給したデータ量は陽子衝突の回数にして、実におよそ5京4,000兆回でした。素粒子物理学の指標である「積分ルミノシティ」に換算すると、両実験ともに540インバース・フェムトバーン(fb-1)に達しました。これは、LHCの設計性能を遥かに上回る驚異的な実績です。さらに、全実験を合わせて約3,000億回もの重イオン衝突(酸素やネオンなどの特殊な原子核を用いた運転を除く)を達成しました。
最先端のデータ解析技術と膨大なビッグデータ処理を融合させたことにより、さまざまな物理現象の測定精度を顕著に改善したことが、これらのLHC実験による最大の功績と言えます。世界中から集まった数千人もの研究者からなる共同研究チームは、未踏の物理学領域を切り拓き続け、それらは歴史的な「ヒッグス粒子の発見」と、その性質の精密解明として結実しました。
さらにLHCは、以下をはじめとする数百もの画期的な科学的進展を達成してきました。
・ 85個以上もの新しいハドロン(複数のクォークで構成される粒子)の発見
・ 新物理探索における理論模型の制限の大幅な更新
・ 宇宙の謎に迫る物質と反物質の非対称性の研究の進展
・ 宇宙誕生直後に存在したとされるクォーク・グルーオン・プラズマに関する研究の進展
・ 宇宙線実験の精度を高める重要な測定
などの成果があげられます。LHCの共同研究チームがこれまでに発表した査読付きの科学論文は、検出技術に関する論文や学会議事録などを除いても、約4,500本にのぼります。
CERNの研究・コンピューティング担当ディレクターであるGautier Hamel de Monchenault氏は、今回の節目について次のように述べています。
「私たちは今、物理学の歴史の新しいページをめくろうとしています。しかし、これまでに蓄積されたLHCのデータはまだすべてを出し尽くしたわけではなく、私たちのチームは今後数年間、解析作業を精力的に続けていきます。そして4年後、高輝度化された次世代LHCとその実験装置とともに、私たちはまったく新しい章を開くことになるでしょう。」
HL-LHCがもたらす「新章」は、これまでにない精度で素粒子現象を調べ、まだ見ぬ未知の物理現象の発見を呼び起こす、素晴らしいものになるに違いありません。
関連リンク
CERN TOPIC: Experiments(15 June, 2026): Final collisions, new horizons (原文)