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飯澤特任助教が第20回(2026年)日本物理学会若手奨励賞を受賞

飯澤特任助教

将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために設けられたこの賞は、40才未満の若手による学位取得後の業績で、対象者の寄与が本質的であり、過去3年以内脚注に学術雑誌に掲載された論文を審査対象としています。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
飯澤特任助教は、大学院の学生時代から、ジュネーヴ大学、オックスフォード大学の研究者の頃も一貫してLHC-ATLAS実験に従事し、今年1月のICEPP着任後もCERNに常駐しながら大規模国際実験を推進する実験屋として、新粒子探索範囲のさらなる拡大や検出器の高精度化に挑戦し続け、グループ内でリーダーシップを発揮しています。


受賞研究

ATLAS実験におけるボトムクォークとτレプトンに崩壊する第三世代レプトクォーク対生成事象の探索
受賞論文 Search for pair production of third-generation leptoquarks decaying into a bottom quark and aτ-lepton with the ATLAS detector
Eur. Phys. J. C, 83 (2023) 1075

受賞理由

表記の論文は、bクォークおよびτレプトンに崩壊するスカラー型およびベクトル型レプトクォークのLHC-ATLAS実験における探索結果である。レプトクォークは、大統一理論など標準模型を超える理論において現れる粒子であり、その存在を直接探索することは、理論の実験的検証において極めて重要である。ATLASは2019年に同様の解析を発表しているが、Run2の全データを使い解析手法に改善を加えている。本研究において、τレプトンの崩壊モードの異なる2つのチャンネルについて、統合的に解析を進めて最終結果を導出している。また、トップクォーク生成事象からの背景事象を詳しく解析して、詳細な理解に基づいた評価を実施した。これら多角的な改良により、特にスカラー型レプトクォークの質量制限は、従来の1.00TeVから1.46TeV へと大きく拡張された。
飯澤氏は第三世代レプトクォーク専門の解析グループを立ち上げ、解析戦略の設計、背景事象の見積もり、系統誤差の評価、統計的手法による上限値導出まで、解析全体を牽引した。これらの結果は、飯澤氏の卓越した解析能力と研究推進力を示すもので、リーダーシップおよび協調性にも優れている。以上の理由から、本論文は日本物理学会若手奨励賞にふさわしいと判断する。(選考委員会による講評)

感想と今後の抱負

次なる新物理・新粒子はどこにあるのか? その問いに答えるものの一つとして、多くの標準模型を超える理論がクォークとレプトンを結びつける新粒子“レプトクォーク”の存在を予言しています。本研究はATLAS実験のRun2データを用いて初めてレプトクォークに特化した探索を行ったものです。先行研究に他解析の別解釈としての探索結果はあったのですが、専門解析として事象選別、背景事象の見積もり、系統誤差の取り扱い等をレプトクォーク探索に最適化し、レプトクォークの質量下限値を従来の1.00TeVから1.46TeVへと大きく更新しました。 ATLAS実験内における系統的なレプトクォーク探索の端緒となり、その後の解析戦略の展開にも影響を与えたと考えています。
今後の抱負としては、新粒子・新物理への指針が明確でない現在だからこそ、既存の方法や考え方にとらわれずに時には視点やアプローチを柔軟に変えるなどして、新しい事象の発見に貢献していければと考えています。

関連リンク

日本物理学会若手奨励賞(関連サイト)