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ペンシルべニア大学 杉崎研究員が第27回(2025年度)高エネルギー物理学奨励賞を受賞

ATLAS Thesis Awards 2024授賞式
ATLAS Thesis Awards 2024授賞式の写真

高エネルギー物理学を担う優秀な若手研究者の学位取得後の研究を奨励するために設けられたこの賞は、その研究者の優れた業績に対して授与するもので、今後さらにステップアップするための登竜門と言えます。
応募対象は、過去3年以内に学位を取得した応募者の学位論文とされており、選考委員会内で厳密な審議が重ねられた後に受賞者3名が確定します。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
ペンシルべニア大学の杉崎研究員は、奥村研究室に在籍した修士・博士課程の間にLHC-ATLAS実験に従事し、最先端の装置開発、実験データ収集から物理データ解析までを通じて総合的な研究力を鍛え上げ、2024年10月から世界を舞台として行動する高エネルギー物理の実験屋となって活躍しています。
杉崎氏の博士論文は、独創的な研究成果と学術的価値の高さが評価され、2025年2月のATLAS Thesis Awards 2024に次いで、このたび第27回(2025年度)高エネルギー物理学奨励賞を受賞しました。


受賞論文

Search for higgsinos with compressed mass spectra in final states with low-momentum leptons using 140 fb-1 of proton-proton collisions at √s = 13 TeV

受賞理由

本論文は、LHC加速器を用いたATLAS実験のデータを用い、超対称性粒子でダークマター候補である中性ヒグシーノについて、荷電ヒグシーノとの質量差の小さい場合の探索に取り組んだ研究であり、これまで解析が困難であった質量差1-2GeVの領域に独自の手法で挑戦し、世界で初めての結果を示した。残念ながらヒグシーノ発見には至らなかったが、本研究によって初めてすべての質量差領域の解析ができるようになり、大きな意義がある。
特に、低横運動量電子の同定手法を新たに構築し、従来の探索範囲を拡張したことは、著者の高い独創性と技術力を示すものである。また、機械学習など最新の解析手法を適切に導入し、複雑なデータ解析を的確に遂行した点も高く評価できる。大規模な共同研究体制の中で、本研究を著者が主導して進めており、貢献度は大きい。論文は、動機付けから解析手法、結果に至るまで論理的に整理され、わかりやすく記述されており、博士論文としての完成度は非常に高い。以上から、本論文は高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断する。(選考委員会による講評)

感想と今後の抱負

このたびは本賞を頂くことができ、大変光栄です。
暗黒物質の正体の解明やヒッグス粒子の質量に関する微調整問題の解決をはじめ、素粒子の標準模型を超える新物理の追究は高エネルギー物理学における最重要課題です。ヒグシーノ粒子が軽い超対称性模型は非常に有力視されている新物理候補ですが、ヒグシーノが崩壊する際に放出される粒子は低エネルギーであるため、LHCのようなエネルギーフロンティア実験においてヒグシーノ生成事象を検出することは困難とされてきました。
本研究では深層学習を応用することで、ヒグシーノ崩壊過程で放出される低エネルギーの電子の同定手法や、ヒグシーノ探索における事象解析手法を抜本的に改善し、とある質量領域におけるヒグシーノ探索を初めて可能にしました。本研究で得られた検出器応答や深層学習の知見は汎用性が高く、現行のLHC第3期運転やその先の高輝度LHC実験のデータを用いた解析にも応用できると思っています。今後はヒグシーノや超対称性模型の探索にとどまらず、多方面から標準模型を超える新物理の探索に貢献していきたいです。

関連リンク

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