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江成祐二助教が「ATLAS Outstanding Achievement Award 2022」を受賞

ATLASコラボレーションは、2022年6月23日にCERNでATLAS Outstanding Achievement Award 2022の授賞式を開催しました。2014年に設立されたこの賞は、物理解析を除いた全ての研究分野のコラボレーションメンバーを対象とし、献身的な努力と価値の高い技術的な業績を称えて表彰されるものです。今回の受賞者は、2020年8月から2022年1月までの期間に、検出器のアップグレードをはじめ、ソフトウェア、アウトリーチ、コンピューティング等の各分野で貢献を果たした研究者に贈られ、江成助教は検出器のアップグレードでの素晴らしい活躍ぶりが認められました。

LArカロリメータを開発する江成助教
ATLAS Outstanding Achievement Award 2022 授賞式の模様。写真ほぼ中央に江成祐二助教。

受賞理由

ATLAS液体アルゴンカロリメータのデジタル読出しシステムへの貢献

受賞に繋がった研究内容

LHCは高エネルギーの陽子・陽子衝突によってヒッグス粒子等を生成し、標準理論を超える新粒子も生成しうる世界最高性能の加速器ですが、今後のビーム強度の増加に伴い、膨大な背景事象が発生します。背景事象に埋もれた物理的に興味のある事象をできるだけ効率よく取得するには、背景事象の抑制が実験成功のカギを握ります。この事象の取捨選択をリアルタイムで行うのが、初段トリガーシステムです。
東京大学は2013年より液体アルゴン(Liquid Argon: LAr)カロリメータの初段トリガー読出しのデジタル化に取り組んできました。この新しいハードウェアは、2029年に開始予定のLHCの高輝度化(HL-LHC)に向けたATLAS実験のPhase-Iアップグレードの一環として開発を行ない、2019~21年に検出器上に導入されました。今回の受賞は、新型コロナウイルスが引き起こしたパンデミックのなかで懸命に進められた新システム導入の指揮チームの一員として、また、新しいリアルタイム信号処理アルゴリズムにおけるエネルギー算出パートの責任者として、システムを安定稼働状態に漕ぎ着けた貢献が認められました。現在、LHC第3期実験(Run3)の立ち上げと並行し、LHCビームを使ったコミッショニングを進めています。

LAr
[LArカロリメータの概観] 黄色の検出器がLArカロリメータ、灰色の検出器がタイルカロリメータを示す。

今後の抱負

2022年春にいよいよRun3実験が開始され、LArの新システムはほぼ設計通りに動くことは確認できていますが、まだ完全ではありません。コミッショニングをしっかりと仕上げ、Run3期間中に質の高いデータを効率よく取れるように尽力するつもりです。また今回導入されたトリガーを元に、今まで探索できなかったような領域をターゲットにした解析を進め、標準理論の陰に潜む物理の存在を明らかにしていきたいと思います。

CERNの関連情報

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