「すごい!! 素粒子実験って面白そう」と直観で選んだICEPP
博士課程へ進学してどのような心境ですか?
今は博士1年になったばかりで、とてもワクワクしています。ICEPPに入った頃はまだ、将来、博士に進むかどうか、心を決め切れていなかったのですが、修士で研究を進めていくうちに、研究成果を出すには2年では全然足りないと実感して、博士への進学を決意しました。近々、またスイスのPSI(ポールシェラー研究所)に行く予定です。PSIでは、ミュー粒子が電子とガンマ線に崩壊する現象(μ→eγ)を探すMEG II実験が行われています。この崩壊は標準模型では禁止されている一方、多くの新物理理論では観測可能な頻度で起こることが予測されているため、もし観測されれば新しい物理の存在を示す重要な手がかりとなります。修士の時はこの次に予定されている新しい実験に関わる研究をしていました。博士では、いまのMEG II実験そのものにシフトしたいと考えています。ちょうど私が博士を卒業するくらいのタイミングで、MEG II実験の最終結果が出せるんじゃないか、それに貢献してみたいと思っています。
ICEPPを選んだ理由を教えてください。
理系に進んだのは数学が面白かったからですが、物理を選んだのは、この実世界というか、自然界に即した科学を勉強したかったからです。世界の一番根源的な科学が物理なのかなと思ったのですね。ICEPPを選んだのは、澤田先生のゼミナールに参加したのがきっかけです。ヒッグス粒子の歴史的発見時に使われた実際のデータがあるのですが、そのデータの中にヒッグス粒子の質量のところにピークが立っている場所を、私たち学生が見つけるという作業を体験させてもらったんです。「おっ、すごい!! 素粒子実験って面白そう」と、とても感動して、こういうことが自分も研究でできたらいいなと思い、ICEPPにとても興味が湧きました。

海外での研究生活には慣れましたか?
最初にPSIに派遣されたのは修士1年の秋でした。ぜひ行ってみたいと考えていましたので、「ようやく願いが叶った」と、とても嬉しかったです。仕事は解析やシミュレーションが主で、わからないことも多く、たいへんではあったのですが、ICEPPの先輩たちや、まわりの方々に助けられて楽しくやれたかなと思います。「μ→eγ」探索に貢献しているという喜びもありましたし、PSIで研究している世界中の人たちと交流もできて、とても充実した日々を送ることができました。海外での研究はもちろんこれが初めてでしたが、不安はありませんでした。度胸があるというより、あまり深く考えない性格だからかもしれません(笑)。最初の3カ月の滞在では、たくさんの優秀な方々を目にして、私も早くあんな風によい研究ができるようになりたいという思いがいっそう強まりました。
どのような研究に取り組んでいますか?
昨年はほぼ200日間、PSIで研究を続けていました。PSIは、将来的にミューオンビームライン(ミューオンを生成して、電磁石を用いて実験エリアへ輸送・集束させる装置)を大規模に刷新し、ビーム強度を100倍に増強する予定ですが、この世界最高強度のビームに耐え、かつ分解能が高い検出器を用意して、MEG IIよりさらに高感度の実験を行う計画があります。
そのためには、ガンマ線の検出方法を従来の方式から一新する必要があり、ペアスペクトロメータ方式という新しいコンセプトのガンマ線検出器を検討しています。ガンマ線は電荷をもたないため、荷電粒子のように磁場で飛跡を曲げて運動量を測定することができず、良い分解能での測定が難しいといった課題がありました。そこで、ガンマ線を電子陽電子対に対生成させることでガンマ線測定を荷電粒子測定に置き換えてしまおうというのがペアスペクトロメーターの発想です。
このコンセプトを実際の検出器として成立させるために、私の研究では実際にプロトタイプを製作し、試験データを解析して性能評価を行ったり、シミュレーションを構築して検出器の設計方針を慎重に検討しました。それを論文にまとめましたが、英語で論文を書くのは初めてで、ただ英文を書けばよいというわけではなく、思ってもみない指摘が周囲からいろいろ入り、だいぶ苦労しました。でも、自分の研究がまとまった形になるのは達成感もあり、楽しかったです。

将来の展望を教えてください。
博士学位取得後のことは、まだあまり考えていません。研究をやり切ったという思いから企業に入るかもしれませんし、あるいは研究をもっと続けようと思うかもしれません。これを読んでいる学生のみなさんも、進路は直観で決めてもいいんじゃないかなと思います。私自身、ICEPPを選んだのは直観でしたが、まったく後悔していません。だから、あまり考えすぎず、自分が面白そうだと感じた気持ちを信じてもいいんじゃないかなと、自分の体験からそう思いますね。