熱量計型粒子検出器(bolometer, micro calorimeter)

極低温物理環境を利用した放射線粒子検出器(低温放射線検出器)のうち、物体(吸収体)の温度上昇を測定することで粒子が入射したことを検出するものを熱量計型粒子検出器という。

検出すべき放射線粒子が荷電を持つ場合には粒子の運動エネルギーが電離エネルギー損失によって吸収体の格子振動エネルギーに変換される。中性粒子の場合には衝突によって吸収体中の電子や原子核などの荷電粒子にいったん一部または全部のエネルギーが受け渡される。特にX線の場合には光電効果により全エネルギーが電子に受け渡される。

検出したい放射線粒子のエネルギーEを仮に1keV程度と考えると、1.6×10-16Jに相当しそのエネルギー全部が吸収体に与えられたとしても通常の方法ではその熱量測定は不可能である。しかし、Cをエネルギー吸収体の単位体積あたりの熱容量、Vを体積とするとエネルギーEを与えたときのその物体の温度上昇は、T = E/(CV)となるので、熱容量を十分に小さくできればこれが可能となる。

絶縁体、半導体および超伝導体の低い温度Tでの熱容量は格子振動に起因する項、

C=(12π4NkB/5)(TD)3

のみであらわされる。ここでNは全原子数、kBはボルツマン定数、ΘDはデバイ温度である。したがって、Tを絶対零度にちかづけるとCは急速にちいさくなるので、巨視的な吸収体を用いても温度上昇を測定することが可能となる。

図は熱量計型粒子検出器の摸式図である。入射した放射線粒子のエネルギーによって一時的に上昇した吸収体の温度変化を電子的温度計で計測する。その後吸収体の熱はインピーダンスを通じて熱浴に流れて元の温度に戻る。インピーダンスをZとすると、温度復帰の時定数はほぼZCVに等しくなる。




電子的温度計には半導体抵抗温度計(thermistor)や超伝導転移温度計(transition edge sensor, TES)などが使われる。前者の場合は熱容量を小さくするため吸収体ともども10mK程度の極低温に冷却して使われる。後者の場合には温度計に使われる金属の転移温度の近傍に温度を設定し、わずかな温度変化による抵抗値の大きな変化を利用する。吸収体は目的に応じて絶縁体、半導体および超伝導体の中から選択する。

半導体検出器やシンチレータなどの検出器では、電子に較べて低速のα線や荷電重粒子に対しては信号の大きさが小さくなるというクエンチング効果があることが知られているが、熱量計型粒子検出器では原理的にクエンチングは見られない。

熱量計型粒子検出器は、X線の高分解能エネルギー測定、X線天文学、物質の内部放射能の測定、宇宙の暗黒物質候補と考えられている超対称性粒子ニュートラリーノの探索実験などに使われている。X線用のものでは1.5keVのX線に対して半値全幅分解能2.4eVが得られている。


最終更新日: 2003-07-16
東京大学 蓑輪 眞 L
 minowa(この部分とる)@phys.s.u-tokyo.ac.jp