暗黒物質ダークフォトンを超伝導量子ビットで見つけたい

どのような研究に取り組んでいますか?
超伝導量子ビットを用いて暗黒物質を探索する。それが私の研究テーマです。修士になったときに先生方から「こういう面白いテーマがあるよ」と教えていただき、それで取り組みはじめました。
暗黒物質(ダークマター)とは、大まかには、宇宙に存在していることは確実なのに、いまだ見つかっていない素粒子のことです。なぜ見つからないかというと、今の検出技術では捉えられないほど暗黒物質からの信号がとても微弱だからなんです。ということは、より敏感なセンサーを開発すればよいのですが、いわば古典的な機械工学でつくられるセンサーではすでに限界ギリギリです。そこで、古典的ではない、進化したセンサー技術によるより感度の高いものが必要になってきます。それが、量子的な効果をセンサーとして利用する、つまり量子ビットをセンサーとして使うということになるわけです。量子ビットでは人為的に光子(フォトン)を打ち込むことで0か1の状態にセットするのですが、これは自然に飛んできた光子にも量子ビットは敏感に反応するということでもあります。それが私たちICEPPの研究チームがセンサーとして量子ビットを用いる理由です。
検出を目指しているのは、ダークフォトンという暗黒物質です。最先端の理論からは、暗黒物質Aは粒子Bに変換されるといった変換法則がいくつか予測されているのですが、その中で一番シンプルなのがダークフォトンからフォトンへの変換です。ダークフォトン自体はそのままでは検出されないのですが、ダークフォトンから変換されたフォトンを見つけることで、ダークフォトンの存在を明らかにしようというわけです。

センサーとなる量子ビット作りから始めているそうですね。
私は探索に使う量子ビットの作製から手がけています。これは超伝導量子コンピューターに使うものと同じデザインのチップです。量子ビット自体の一番重要な部分は0.2μm程度の大きさで、作り方は半導体技術にかなり近いです。ウエハーというサファイアやシリコンの板の上に、専用の機械を使ってアルミウムなどの金属で回路を作ります。
そうやって作製した超伝導量子ビットを、0.01ケルビン(摂氏-273.14度)に冷やした計測系の希釈冷凍機に入れ、自分で計測データを取得し、そのデータを解析します。つまり、量子ビットを作るところから最終的に結果を出すまでのすべてのプロセスを全部自分でできるという点が、とても面白くてやりがいを感じます。
検出では、背景事象のノイズの中の特定周波数のところに鋭い山が立ったら、そこにダークマターがあるということになります。ノイズに対して信号のピークが5倍程度の高さであれば、ダークフォトンが発見されたと見なされます。ですから、外部から飛んでくるノイズを遮断することが大事です。物質が温度を持っているだけでも電磁波が放射されてしまうためです。

暗黒物質探索の展望を教えてください。
超伝導量子ビットで暗黒物質を探索するこの研究は、いま世界中で始まったばかりです。一番最初の論文がシカゴ大学から出たのは2021年で本当に最近のことです。私たち、ICEPPの研究チームが研究を始めたのがその翌年ぐらいからです。これからますますホットになるテーマだと確信していますし、そういった意味でも高揚感のようなものが強くあります。2024年にギリシャでの国際学会に出席したのですが、そこでもかなり注目を集めていて、世界中でこの研究が行なわれているというのを肌で感じることができました。私もいろいろな研究者の方から話しかけてもらえたので、個人のモチベーションにもとてもつながりました。

世界の一番新しい研究の一翼に自分が連なっていることは、とてもすごいことですし、ICEPPには本当に感謝しています。ICEPPには暗黒物質探索の専門の先生が大勢いらっしゃいますし、量子ビットや量子ソフトウェア関係の先生方もいらっしゃるし、どちらにも強みを持っているので、そういう中で研究できるのは、知識の吸収という意味でも、とても素晴らしいことだと感じていますね。
今はダークフォトンの探索を行なっていますが、ゆくゆくは別の粒子も探したいと思っています。それはアクシオンという暗黒物質ですが、検出の難易度がとても高いです。博士課程ではアクシオンを検出するためのセットアップを整えることに力を注いでいきたいと思います。このアクシオンをちゃんと検出するとともに、検出の最高感度を更新するのが今の私の目標です。